金融取引への課税はまったく見当違いだ--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

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別の解釈としては、FTTの政治上のプラス面は経済面のマイナス面に勝る、と欧州委員会が判断したとも考えられる。FTTは大衆の感情に訴える力が非常に強いために、政治的な影響力の強い金融関係者もこれを阻止することはできない、という主張だ。

さらにシニカルな解釈もある。官僚たちは、欧州ではすでに事実上すべての物事に重税が課されていることに気づいた。そのため、既存の税基盤への課税強化よりも、新たな収入源を模索するほうがいいと考えたのかもしれない。また別の解釈としては、欧州委員会は、FTTが否決されることは承知でありながら、大衆受けする提案をすることで政治的な得点を得ようとしているだけなのかもしれない。

金融危機が世界を直撃したとき、FRB(米国連邦準備制度理事会)議長経験者であるポール・ボルカーは、この数十年間に銀行が発明した役に立つ新技術はATM(現金自動出入機)だけだ、と述べた。また、アカデミー賞受賞のドキュメンタリー映画『インサイド・ジョブ』が正しく指摘しているように、役に立たない技術を生み出して金融危機を発生させた人々は、誰一人としてその代償を払っていない。

金融関係者に怒りをぶつける理由は多々あり、金融業界には真の改革が必要だ。しかしFTTは、たとえ高潔で知的な由来があったとしても、欧州、ひいては世界が直面する問題の解決策とはならない。

Kenneth Rogoff
1953年生まれ。80年マサチューセッツ工科大学で経済学博士号を取得。99年よりハーバード大学経済学部教授。国際金融分野の権威。2001~03年までIMFの経済担当顧問兼調査局長を務めた。チェスの天才としても名を馳せる。

(週刊東洋経済2011年11月12日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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