金価格の高騰にめげない田中貴金属の節約力

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いかに細く長い線ができても、次にきれいに巻く技術が伴わなければ、ICとリードフレームをワイヤで正確につなぐことはできない。「きれいに巻くには、ある程度の力を加えることが必要。その力加減や巻く速度のノウハウも重要」(笠原社長)。

同社にとって、そうした加工技術のほかに、強みとなっているのはワイヤ製品のラインナップだ。

たとえば近年、ワイヤは金製から銅製への置き換えが進んでいる。銅は金同様に電気をよく通す一方、コストは金の約1割と割安。ただし、さびやすく、加工するほど変色して硬くなるなどの欠点があった。

これまでも二度、置き換えが進みかけた時期があったが、金価格の上昇基調が収まると、その動きも沈静化していた。しかし、「今回の金価格上昇はこれまで以上に長く、本格的に銅へのシフトが進んでいる」と田中電子のボンディングワイヤ製品部の秋元英行氏は説明する。

銅製ワイヤの利用を阻む技術的なハードルをクリアするために、添加剤を加えたり、製造のスピードを上げて変色させないなどの工夫を重ねてきた。銅の表面をパラジウムで覆って、さびにくくした新製品も投入。結果、低価格志向が強い中国などを中心に需要は伸びている。

田中電子の銅製ワイヤの2011年上期の出荷量は、3年前の約10倍に拡大。現在、同社は佐賀のほかマレーシア、中国、シンガポールに工場を構えるが、今年7月には中国で銅製ワイヤの生産を開始。シンガポール工場も増設し、銅製ワイヤの生産能力を従来比2倍に拡大した。

将来的な銅以外への置き換えも見据える。「12年までは銅への対応。13年からは新たな銀の市場を作る」と笠原社長は意気込む。

同社は今年6月、銀製ワイヤを発売した。顧客にとっての利点は設備面での負担が少ないことにある。銅製ワイヤはICと電極とをつなぐ際、水素と窒素の混合ガスを使用するため、設備投資が必要で顧客の負担となる。銀製ワイヤの場合、金製と同じく窒素ガスのみで使用できるため、新たな設備が不要。金製からの容易な切り替えが可能だ。

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