日本はそろそろ就活を「通年化」するべきだ! 今回の「就活後ろ倒し」も中途半端?

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ただ、企業だけでなく学生側も、超短期決戦の就職活動(公式的には)には戸惑いがあるようです。これまでは半年ほどあった選考期間がたったの2カ月に短縮されるのです。全国求人情報協会の調査によると、昨年度の大学生は企業に対して応募数57.7社、企業説明会参加24.3社、書類選考19.3社、面接12.2社で内定を確保しました。幅広い企業の採用に挑戦して可能性を探ることができたともいえます。ただ、機会均等の原則の名のもとで、興味本位のエントリーが横行し、人気企業をさらに狭き門にするといった問題になっていたのも事実。ところが、今年からのように就活の期間が短くなれば、応募自体はできても説明会や面接に参加する機会を減らさなければなりません。

・内定する可能性がある応募先へのエントリーに絞る

・会社・業界研究に時間をかける

など、手堅い会社選びが行われることになります。そこで、学生は解禁日までに中堅企業でいったん内定を確保して、解禁後に大企業の選考で勝負をかける二段構えの戦略を取ることになります。はたして、中堅企業で手堅く内定を確保した学生たちはその後、大企業の内定を取ることができるのでしょうか?

大企業の採用数は今、増加傾向にあります。採用スタンスは「採用予定人数の確保よりも、学生の質を優先させる」という企業が全体の83.6%と依然大勢を占めものの、一方で「学生の質よりも、採用予定人数の確保を優先させる」企業がリーマン・ショック前の数値を上回っています(ディスコ調べ)。こうしたデータからも人材獲得競争が過熱している様子がわかります。

おそらく、多くの学生が解禁後の就活で内定した会社に入社。解禁前に手堅く内定を確保した会社を辞退する学生が相当数になるのは間違いないでしょう。

だとすれば、中堅企業が春先に先行して採用活動する意味はあるのか?春をあきらめて、秋採用、あるいは先行時期を定めない「通年採用」する中堅企業が今後増える気がしてなりません。

通年採用は救いの手となるか

以前、秋採用を推奨する記事を書きましたが、秋だけと時期を限定することがナンセンスな時代にもなってきた気がします。すでに、通年採用に取り組む企業が増えています。

例えば、楽天。開発職の採用において新卒採用の枠組みを廃止し、新卒・中途採用の通年採用を開始しています。新卒の秋採用枠を拡大して留学生や海外の学生も応募しやすい環境を整えていたものの、入社希望者の年齢や職務経験、入社時期を限定して募集・選考する採用方法は不要であると考え、通年採用へ変更しています。

ユニクロ、バンダイナムコなど、通年採用を開始する企業はいま多数にのぼっています。対象は留学生、エンジニアから始まり、全学生へと広がり始めています。ただし、取り組んでいる大半は大企業。一年中採用活動をするために、通年でそのための人材を社内で配置する必要があるからです。その余力があるのはやはり人員に比較的ゆとりのある大企業です。

ただ、中堅企業ではそれは無理でしょうか。本気で優秀な人材を採用したいなら、今の枠組みで大企業に挑んで無駄なコストをかけるより、通年採用で門戸を広げることで、よりよいマッチングにつながる可能性が高まるのは間違いありません。一年中採用の門戸が開かれていれば、学業にゆっくり専念できる学生が増える可能性もあります。今回の就活の後ろ倒しが、採用時期をより長くし、企業と学生がよりよく出会えるようになる、ひとつのきっかけになってほしいものです。

高城 幸司 株式会社セレブレイン社長

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たかぎ こうじ / Kouji Takagi

1964年10月21日、東京都生まれ。1986年同志社大学文学部卒業後、リクルートに入社。6期トップセールスに輝き、社内で創業以来歴史に残る「伝説のトップセールスマン」と呼ばれる。また、当時の活躍を書いたビジネス書は10万部を超えるベストセラーとなった。1996年には日本初の独立/起業の情報誌『アントレ』を立ち上げ、事業部長、編集長を経験。その後、株式会社セレブレイン社長に就任。その他、講演活動やラジオパーソナリティとして多くのタレント・経営者との接点を広げている。著書に『トップ営業のフレームワーク 売るための行動パターンと仕組み化・習慣化』(東洋経済新報社刊)など。

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