不屈の闘魂が見えない野田首相が背負う使命

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不屈の闘魂が見えない野田首相が背負う使命

塩田潮

 現憲法施行後に登場した30人の首相について、国会議員初当選から政権到達までの年月を調べてみた。

 長い時間を要した上位5人は鳩山一郎(39年8カ月)、宮沢(38年7カ月)、三木(37年8カ月)、中曽根(35年7カ月)、小渕(34年8カ月)の各氏の順である。一方、短いのは最短の石橋氏(9年8カ月)以下、池田(11年6カ月)、安倍(13年2カ月)、佐藤(15年9カ月)、岸(15年10カ月)、芦田(16年3カ月)、片山(17年1カ月)、福田康夫(17年7カ月)の各氏が続き、18年2カ月の野田首相は9位だ(初当選は1993年、当選後、3年半の落選期間があるので、首相就任までの議員歴は14年8カ月)。30人の平均は25年5カ月だから、「どじょう」に似合わず、スピード出世組といっていい。

 だが、政権獲得までに4つの大きな試練を体験している。第一は1996年総選挙での落選だ。現行選挙制度による初の総選挙で、所属する新進党が重複立候補を禁止したため、小選挙区単独(千葉4区)で出て 105票差で敗れた。第二は返り咲きを果たして2年後の2002年9月、民主党代表選に出馬して敗退したことである。若手候補の一本化調整に手間取り、出馬の決断が遅れたのが響いた。

 第三は前原代表時代に国対委員長として偽メール事件に遭遇し、対応を誤って深い傷を負った。第四は08年の小沢代表の任期満了時、代表選出馬に強い意欲を示しながら、最終的に出馬を取り止め、迷走ぶりが批判を浴びた。

 ところが、今年8月の代表選では、過去の試練の教訓を生かし、一発で政権を握った。敗北や失敗があってもへこたれず、今度は真っ先に手を挙げて出馬の意志を貫いた。09年の民主党政権発足の場面では、党内のリーダーで一人だけ要職から外れ、財務副大臣に甘んじたが、急がば回れで、ポストトロイカ世代の第一走者として首相に躍り出た。

 とはいえ、不屈の闘魂が持ち味なのに、立ち上がりの2カ月、安全運転第一で、敢闘精神や挑戦意欲よりも保身イメージが強い。

 民主党政権崩壊の危機だけでなく、「無力な日本政治」による代議制民主主義の危機の克服という使命を背負っていることをお忘れなく。
(写真:梅谷秀司)
塩田潮(しおた・うしお)
ノンフィクション作家・評論家。
1946(昭和21)年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
処女作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師-代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤の真実』『日本国憲法をつくった男-宰相幣原喜重郎』『「昭和の怪物」岸信介の真実』『金融崩壊-昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『出処進退の研究-政治家の本質は退き際に表れる』『安倍晋三の力量』『昭和30年代-「奇跡」と呼ばれた時代の開拓者たち』『危機の政権』など多数
塩田 潮 ノンフィクション作家、ジャーナリスト

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しおた うしお / Ushio Shiota

1946年、高知県生まれ。慶応義塾大学法学部政治学科を卒業。
第1作『霞が関が震えた日』で第5回講談社ノンフィクション賞を受賞。著書は他に『大いなる影法師―代議士秘書の野望と挫折』『「昭和の教祖」安岡正篤』『岸信介』『金融崩壊―昭和経済恐慌からのメッセージ』『郵政最終戦争』『田中角栄失脚』『安倍晋三の力量』『危機の政権』『新版 民主党の研究』『憲法政戦』『権力の握り方』『復活!自民党の謎』『東京は燃えたか―東京オリンピックと黄金の1960年代』『内閣総理大臣の日本経済』など多数。

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