セミナーレポート

企業統治元年 「攻めのコーポレートガバナンス」戦略的実行への道筋

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東京証券取引所が今年6月からコーポレートガバナンス・コードの適用を始め、企業統治が注目されている。7月、東京で開催された「東洋経済経営戦略フォーラム2015 企業統治元年」は、成長につなげる積極的な企業統治の取り組みを検討した。
●主催:東洋経済新報社 ●協賛:エゴンゼンダー

オープニングスピーチ
『攻めのガバナンス』実現のための8か条

エゴンゼンダー
代表取締役社長
佃 秀昭

エゴンゼンダーの佃秀昭氏は、コーポレートガバナンス・コードの複雑多岐にわたる73項目を、そのエッセンスとなる8か条に集約し、中長期的な企業価値向上のために企業が取り組むべき内容について述べた。

▼1条=取締役会の議案を見直す。議案を絞り込み、重要な戦略を議論する。
▼2条=取締役会メンバー構成を見直す。知見・経験の多様性確保に努める。
▼3条=監督と執行の結節点となる取締役会事務局の機能を強化する。
▼4条=指名委員会を強化する。社長後継計画を社外取締役と真剣に議論する。
▼5条=社外取締役が活躍できるよう受入体制を整備し、情報共有、事前説明を充実させる。
▼6条=取締役会議長のファシリテーションを強化し、議事運営を改善する。
▼7条=取締役会の開催時期、開催頻度、開催時間等を見直す。
▼8条=「取締役会評価」を実施する。

「73項目の単なる形式的な順守ではなく、ガバナンスの実効性を高める諸策への実質的な取り組みがあって初めて『攻めのガバナンス』が実現する」と呼びかけた。

特別講演
持続的成長のためのコーポレートガバナンス

コニカミノルタは2003年の経営統合時から、委員会等設置会社のガバナンスシステムを採用してきた。松﨑正年氏は「当時の会長が、経営者もチェックされるべきとして、監督する側と執行側を分けた」と振り返る。同社取締役会は社外4、社内非執行3、執行兼務4人で非執行が過半。取締役会議長は非執行取締役から選任、指名・監査・報酬の各委員長と委員の過半数は社外取締役、代表執行役兼務は指名・報酬委員になれない、といった厳格な仕組みを経営組織基本規則等で定めている。

コニカミノルタ
取締役会議長
松﨑 正年

前社長の松﨑氏は「取締役会から指摘されるので、業績の悪い事業などの問題を放置できず、スピード感のある意思決定につながる」と、緊張感や説明責任強化のメリットを強調。「持続的に成長できる会社であるために、ガバナンスシステムに魂を入れて実効性を高めることが、議長の役割」と話す。また、「日本企業が世界一厳しい日本の消費者に向き合うことで質の高い製品を供給してきたのと同様に、投資家との質の高い対話は経営の質を高める」と、機関投資家をターゲットにした中長期視点の対話の重要性も指摘した。

講演
J.フロント リテイリングの目指す
コーポレートガバナンス

J.フロント リテイリング
代表取締役社長
山本 良一

07年に大丸と松坂屋の共同持ち株会社として発足したJ.フロントリテイリング(JFR)は、銀座、上野の再開発・建て替えプロジェクトを推進し、ファッションビル・パルコの子会社化や通販大手・千趣会の関連会社化などマルチリテイラーとしての成長により、17年以降の飛躍的成長を期す。山本良一氏は「飛躍のためには、経営のあり方を根本から見直す必要がある」と語る。取締役会については、第三者機関を使って評価を行い、実効性向上に向けた主体的変革に取り組む。また、経営人材の選任、評価、処遇などの透明性を高める取り組みも進める。「実質のない議論から優れた成長戦略は生まれない。経営人事機能を強化することで、取締役会とメンバーに結果を出すことを強く求める」と意気込みを語った。

パネルディスカッション
『攻めのガバナンス』実現の方法論

早稲田大学大学院
ファイナンス研究科
教授
川本 裕子

パネルディスカッションでは、松﨑正年、山本良一の両氏に、多くの企業で社外取締役を務めてきた早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授の川本裕子氏も加わり、佃秀昭氏の司会で、社外取締役への期待や、取締役会の運営課題などについて話し合った。

社外取締役に対してどんな役割を期待しますか。

松﨑 第一は執行の監督です。計画、実行、意思決定の妥当性を判断するための的確な質問を期待しています。

山本 社内経営陣の強い思いは視野を狭め、社内の常識は社外の非常識ということになりかねません。社外の知見を取り入れ、われわれの視野を広げてほしいと思っています。

川本 日本企業は同質性が課題の場合が多いので、社外からの多様な視点の提供はより良い意思決定のために大切です。社内の議論は、あうんの呼吸で何となく通じていることもあるので、社外取締役が入ることで外部にも通用する議論になりえます。

取締役の選任プロセスはどうなっていますか。

松﨑 指名委員会でスペック等を審議し、指名委員、ほかの社外取締役、社長が候補を挙げ、絞り込みます。私が社長を務めた5年間で、私の候補が選ばれたのは1度だけ。社長の一存にはなりません。

山本 選任基準のイメージを社長の私と会長で決め、条件を満たす人選リストを第三者機関に依頼し、それを絞り込み、最終的には面談を行い、決定しますので、「社長のお友達」の入る余地はまったくありません。

川本 受ける立場からすると、選任の理由や会社の考え方が、きちんと説明されるとやりやすいように思います。

社外取締役は企業経営の経験者が多いですが、名経営者が優れた社外取締役とは限りません。

松﨑 ガバナンスが現在ほど意識されなかった時代の経営者は、投資家目線に欠けるかもしれません。ただ、どんな人もオールマイティではないので、専門性などについて取締役会全体のバランスを取ることが大事だと思います。

取締役招聘の際、面談だけで適性を見抜けますか。

川本 1度や2度ランチを食べたくらいではわからないかもしれません。胆力があり独立性を保てる人なのか、たとえば政府や経済団体の委員会で会社関係者が一緒に仕事をした経験などからの評価も大事です。そういう評価ができるよう、執行側がつねに幅広いネットワークを持っている必要もあります。

機関設計について、JFRは監査役会設置会社ですが、任意の委員会を設けています。

山本 社内の業務執行役員をしのぐ戦略を社外取締役に立案してもらうことではなく、決めた戦略がどこまでできたかを見極め、評価・処遇につなげてもらうことの方が重要です。そこで、評価者の独立性を保つため、人事報酬委員会を設置しています。

ガバナンス・コードは、取締役会の評価実施を促しています。

山本 当社は第三者機関にお願いし、取締役全員と面談を行います。実効性評価と同時に、出てきた課題を議論し、解決の方向性を取締役会が自ら導き出すことを重視しています。

松﨑 当社では毎年取締役に対し自己評価アンケートを実施し、そこから課題を抽出し、取締役会や委員会運営の改善に反映させています。

「攻めのガバナンス」実現のためには何が必要でしょうか。

山本 取締役会が主体的に論議するように、経営トップも覚悟を持って取り組むことが必要です。

川本 市場で他人のお金を集めて事業をするならリターンの責務も生じます。そうした上場企業の意味をきちんと認識したうえで、企業価値を高めるガバナンスを徹底的に考えてほしいと思います。

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