悲観的な脳でも、楽観的な脳に変えられる なぜマイケル・J・フォックスは復帰できたか

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マイケルは幼少時、ちょっと変わり者だと思われていました。しかし、彼の祖母はとても広い心で「マイケルは将来有名になるよ」と言って、マイケルを常に励ましてくれたのです。そのポジティブな環境に彼のセロトニン運搬遺伝子の型はよく反応したのではないか・・・つまり、遺伝子の型によって楽観・悲観は決まっているわけではない。性格は環境によって変えられるということです。

私の研究室では、こうした環境を人工的につくり、性格を楽観的に変えていく方法を探っています。

性格を楽観的に変える訓練とは

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ひとつの方法として、冒頭で説明をした画像をどんどんみせていく「注意プローブテスト」で意識的に、ポジティブな画像を見るように訓練をするというものがあります。そうすると、悲観的な人が楽観的にかわっていくという実験結果が得られました。

デューク大学の研究では、心に浮かんだ考えや映像に「ラベルづけ」するだけで、脳の前頭前野を活性化させ、悲観脳の中枢である「扁桃体(へんとうたい)」を鎮められることがわかりました。脳スキャナーの中で被験者は、サメ、クモ、ヘビ、銃、ナイフ、爆発といった恐ろしい画像を見せられます。通常ならそれは恐怖の反応を呼び起こし、扁桃体が活性化します。

しかし、それが人工のものか自然のものかを冷静に解釈するように求められていれば、扁桃体の活動は収まったのです。

脳科学が日々明らかにしているこれらの知見は、わたしたちの日常にさまざまな示唆をあたえます。失敗したときのことを考えて、すべてがうまくいかないという人は、まず具体的に計画をたてることで、「ラベルづけ」と同様に、自分の挑戦をより客観的に見られるようになります。すると主観で悲観的にしか見えなかったものを、しだいに落ち着いて見ることができるようになります。

さらに、本当の楽観主義の回でお話しましたように、「継続すること」は楽観主義を維持するためにとても大事なプロセスです。

そうした「努力」をくりかえしながら、よい未来をつとめて思い描くことで、少しずつ性格もかわり、物事もうまくいくようになる。そう今日の脳科学は教えているのです。

エレーヌ・フォックス 認知心理学者、神経科学者

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Elaine Fox

ダブリン大学、ヴィクトリア大学ウェリントン校などを経て、エセックス大学で欧州最大の心理学・脳科学センターを主催。その後、オックスフォード大学の感情神経科学センターを設立・指揮したほか、イギリス政府のメンバーとしてメンタルヘルス研究における国家戦略も担当した。現在はオーストラリアのアデレード大学で心理学部長を務め、認知心理学と神経科学、遺伝子学を組み合わせた先進的な研究を行う。またコンサルタント会社〈オックスフォード・エリート・パフォーマンス〉を経営し、トップアスリートやビジネスパーソンなどのメンタル・トレーニングの指導にもあたっている。著書に『脳科学は人格を変えられるか?』(文藝春秋)。

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