熊本発、中国でぶっちぎりのラーメンチェーン

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 そんな中、日本生まれの味千が成功した理由--。味千中国の潘慰社長はこう語る。「中国の消費者にビジネス環境が合致した、完全な中国式マネジメントを実現できたから」。

 日中合弁とはいえ、実は味千中国は限りなく純粋な中国企業に近い。日本側の出資比率はわずか4・4%。製品開発以外、従業員も大半が中国人だ。

 本部との最初の誓約は、「豚骨ラーメンの味を変えない」という一点だけ。最初から、メニュー構成、価格設定などはすべて現地の経営陣に判断・決定が委ねられた。そもそもが、日本式を試みて挫折し、現地スタッフに丸投げした、というありがちな経緯をたどっていないのである。

 メニューを開けば、その「中国式」の一端がうかがえる。看板メニューの豚骨ラーメン(16元、約240円)のほかに、ラーメンでは「アワビタケラーメン」「ローストダックラーメン」など、どこか中華テイストが漂ってくる。その脇には、「豚軟骨のせいろ飯」「和風総菜盛り合わせ」「かき氷」など、日本のラーメン店ではあまり見掛けないサイドメニューが並ぶ。
 
 実際、中国において、味千はもはや「和風ファストフード店」とでもいうべき業態に進化していた。こうしたメニューを、中国人客は数人で何点か頼んで取り分け、「和食」として楽しむ。1人当たりの消費額は35元(約530円)。この「1品プラスアルファで30元台」という価格設定が、中国の若者消費者にとっては絶妙なスイートスポットなのである。
 
 たとえば、07年春に中国市場から撤退した中堅パスタ料理チェーン、ピエトロ。主力のスパゲティ1皿40元(約600円)という価格設定が、「現地市場の水準に合わず、ビジネスを拡大できなかった」(同社広報)といい、上海で2店を出店したにとどまった。
 
 中国の消費者感覚で、たった1品で40元というのは足が遠のく。わずか5元の差、品数にしてプラスアルファ多いか少ないかがいかに彼らにとって大きいか、日本人の皮膚感覚では実感しにくかったのだ。
 
 もう一点、味千中国の経営陣は出店環境にこだわった。

 出店先の多くは、都市部にある高級ショッピングセンターのレストラン街。この立地は「賃料は日本の一級地と変わらない。日本の中堅企業なら臆する相場」と上海の不動産業者は打ち明ける。確かに、地元のラーメン店が1品10元(約150円)以内であることを考えれば、味千中国の価格帯は高い。これが受け入れられる中・高所得者が足を運ぶ場所であることが必須条件なのだ。
 
 この顧客層が集まる立地でさえあれば、出店先は上海や北京などに限らない。実際、味千中国は武漢市や貴州省といった比較的所得の低い内陸地にもピンポイントで出店し、かつ高収益を維持できている。こうした経営判断には、ローカル経営陣ならではの、立地に対する勘がフルに生かされているという。

本当の収穫はこれから、広がる華僑人脈の輪

 では、味千中国の成長は、現実問題、本家の重光産業にどれくらいの果実をもたらしているのだろうか。

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