「東芝事件」を生んだ、男独特の2つの心理 なぜ彼らは暴走するのか?

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「スジ」とは上下関係のこと。部長の頭越しに社長に話をする、事前に根回しをしないでいきなり提案してくるなど、そういった上下関係・力関係が崩れるような行為には、めっぽう厳しいのが男社会の理屈です。

東芝でも「上司の意向に逆らうことができない企業風土」があったと報告されていますが(そうじゃない風土の会社があるのか、という疑問はさておき)、逆にそこさえクリアにしておけば、たいていの無理は通るという文化が、事件の遠因にあるかもしれません。

女性が仕事に求めるのは「価値」

さて男が「勝ち」を求めるなら、女が仕事に求めるのは「価値」です。

勝った・負けたにはあまり執着せず、自分らしい仕事ができたかどうか、よりよい社会になるような仕事ができたかどうか、が気になります。ですから「勝つためにルールをねじ曲げる」という発想自体がないのです。

彼女たちは「勝った・負けた」「儲かった・損した」に一喜一憂する男たちを内心、「なにが楽しいの?」と小馬鹿にしています。それはまるで、ゲームに夢中になる同級生を冷ややかな目で見る女子中学生のようです。

が、それはお互いさまというもので、男たちもまた「ホワイト企業? コーポレートガバナンス? それって儲かるの?」「クリーンだけど儲からないなんて、意味ないじゃん」と恥じ入る様子はありません。

むしろ、勝ち負けに興味がない女たち(や新入社員)が「やりがい」「楽しさ」を求めることにつけ込んで、「毎日、楽しいだろう?」「こんなやりがいがある仕事なんだから、残業もへっちゃらだよね」と、ブラックな働き方を強いる男性経営者も少なくないのです。

「長い目で見れば、ワークライフバランスの整った企業のほうが業績がいい」「短期的な利益を求めて不正をしても、長期的には痛い目を見る」とどれだけ言われようとも、いっこうに聞く耳を持たなかった経営者にとって、冒頭の事件はいい薬になったはず。

 「なにがなんでも勝てばOK」という価値観が、「ルールの中で正当に勝たなくては意味がない」という価値観にシフトしていくことこそが、「正しい」経営・働き方には欠かせない。当たり前すぎるそのことを、私たちは改めて東芝の不祥事から学ぶべきでしょう。
 

五百田 達成 作家、心理カウンセラー

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いおた たつなり / Tatsunari Iota

米国CCE,Inc.認定 GCDFキャリアカウンセラー、株式会社 五百田達成事務所代表。35万部を突破した察しない男 説明しない女シリーズ、『不機嫌な長男・長女 無責任な末っ子たち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。東京大学教養学部卒業後、角川書店、博報堂、博報堂生活総合研究所を経て独立。「コミュニケーション心理」「職場の人間関係」を主なテーマに執筆や講演を行う。

 

 

 

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