JFE、反転攻勢を懸けた「5%出資」の本気度 ベトナム高炉への少額出資は是か非か

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そこに協力関係を持ちかけたのが、ベトナムで一貫製鉄所を建設していた台プラだった。同社は世界的な化学メーカーで、鉄鋼業の知見はさほど多くない。同社は新日鉄住金などにも声をかけたが「採算が合わないと断った」(新日鉄住金関係者)。JFEが出資を決める前には、台湾の鉄鋼メーカー最大手の中国鋼鉄が25%の出資を公表していた。

台プラが70%、中国鋼鉄が25%を出資する中で、JFEの5%は決して大きな比率とはいえない。それでも、JFEホールディングスの岡田伸一副社長は「やるからには成長戦略に資するものにしたい」と意気込む。

背景にあるのが、今年4月に発表した中期経営計画だ。JFEは現在、自社で2900万トン、提携先から調達する300万トンの計3200万トンをJFEブランドの鋼材として販売している。これを2020年に4000万トン、2025年に5000万トンに引き上げる成長戦略を掲げている。

主軸となるのは海外提携の拡大だ。1999年から協力関係にある韓国・東国製鋼とは2006年に、インドのJSWとは2009年に提携し、それぞれ15%ずつ出資する大株主となっている。

自社生産分以外でJFEブランドとして販売する300万トンは大半をこの2社から購入しており、提携先を増やすことで鋼材の調達量を拡大させる狙いがある。その一方、国内に2カ所ある自社の製鉄所は老朽化設備の更新や新設備の導入を進め、より採算のよい高付加価値品にシフトする方針だ。

JFEが今後の海外戦略を考えるうえで、中長期での成長が見込める東南アジアに足場を築くことは悲願となっていた。今回出資する一貫製鉄所は、熱延鋼板や条鋼など建築用鋼材向けの生産が中心となる。JFEはタイやベトナムに展開する加工工場用の鋼材を日本製からベトナム製に切り替える方針だ。

次なる課題は北米での事業拡大

少額出資とはいえ東南アジアにメドをつけた先に残されたのは、北米戦略をどう描くかという課題だ。JFEは現在、建材やエネルギー向け鋼管を生産するカリフォルニアスチールを傘下に抱えるものの、需要の旺盛な自動車用鋼板については拠点を持っていない。

2001年に現地の中堅メーカー、AKスチールと自動車用鋼材分野で戦略提携を結び、約3%を出資しているが、目立った成果は上がっていない。JFEとしては自動車用のめっき鋼板を生産する加工拠点を設けたいのが本音だが、肝心のAKスチールは業績不振が続き、2014年度は債務超過に転落している。岡田副社長は「米国にAKスチール+αの戦略を検討している」と打ち明ける。

ベトナムに足掛かりを築いたとはいえ、業界内には「5%の出資では何も変わらない」(大手鉄鋼メーカー幹部)と批判的な声もある。ベトナムに続き、北米の進出など成長戦略をきっちり示すことができるのか。ライバルである新日鉄住金に比べて遅れていた海外展開の成否が、JFEの今後を大きく左右しそうだ。

松浦 大 東洋経済 記者

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まつうら ひろし / Hiroshi Matsuura

明治大学、同大学院を経て、2009年に入社。記者としてはいろいろ担当して、今はソフトウェアやサイバーセキュリティなどを担当(多分)。編集は『業界地図』がメイン。妻と娘、息子、オウムと暮らす。2020年に育休を約8カ月取った。

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