経済学の基本原理が情報化で証明された--『無料ビジネスの時代』を書いた吉本佳生(エコノミスト、著述家)氏に聞く

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──若い人にはケータイを使った無料ゲームがわかりやすいかも。

顧客全体に対する総合的な採算で見て、プラスの利益が狙えればいいというタイプで、総合採算型の無料ビジネスと呼ぶといい。ゲームアプリをダウンロードしてケータイ上で遊ぶだけなら無料。ただ利用者全員がそうすると、ゲームを制作し提供している企業は儲けることが難しい。そこで、付随の広告で収入を得るか、そのゲームに登場するキャラクターがプリントされたグッズなど、関連の有料商品を買ってもらって利益を得ることになる。

──ケータイの複雑に見える料金体系は、その工夫の結果ですか。

たとえば家族無料は子どもに持たせ親におカネを使わせる工夫。しかも、ある大学新入生に対する調査では、最初の支払いプランのままで、ムダが出ている場合も少なくないという。親が払い、学生自身は節約の動機がなくて、深く考えようとはしないようだ。

ケータイ会社は顧客情報を極めて詳細に得ることができる。それだけ工夫した戦術・戦略が取れる。一見大したことはないと思われることでも、多面的に考えた価格戦略を織り込んでいる場合が少なくない。大手企業がやっているときには、こちらから見えない何か合理的な理由があると思ったほうがいい。

消費者を動かすのに迂回ルートというものがある。対象者に直接売り込んでおカネを使ってもらうのは難しくても、何かの形で迂回してから売る。迂回ルートは家族に加えて時間、評判というものもある。それらのルートをうまく使いこなすのに、無料ビジネスは有効だ。

──共同購入型のクーポンによる販売手法が、比較対象として出てきます。

利益を生む総合的な価格戦略をどのように組み立てるか。多くの会社の商品値付け、価格改定には工夫がなさすぎないか。価格戦略とは、単純に値引きして販売量を伸ばせばいいわけではもちろんない。牛丼のように工夫なく値引き競争に陥ると赤字で苦しむだけだ。

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