プロから見て「日本の国内線」は安全ではない 搭乗客の身分は不詳、隣はテロリストかも?

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プライベートデータの管理などの観点から、ID発給制度に問題がゼロと言うつもりはない。ただ、検査の方法もなく「まったくのザル」という状況はどこかで是正すべきなのではないか。今後、訪日客がますます増える中、この問題をそのまま放置しておくのは危険だと考える。

日本独自のルール「液体物の持ち込み可」もコワイ

日本の国内線では、ペットボトルの飲料を持ち込めるという便利な「特徴」がある。ところが、2006年に起きた「英国での航空機爆破テロ未遂事件」が液体性爆発物を使用する計画だったことから、国際民間航空機関(ICAO)は液体物に関する機内持ち込みの制限について明確な指針を示しており、ほとんどの国で飲料は国内線搭乗時でもセキュリティチェックの段階で破棄を求められる。

日本の政府広報オンラインに記された「条件付きで機内に持ち込めるもの」という項目を改めて読んでみると、

・アルコール性飲料
アルコール度が24%を超え70%以下のものはひとり5リットルまで。
※アルコール度が24%以下のものは制限なし。アルコール度が70%を超えるものは機内持ち込み、預け手荷物ともに不可。
・化粧品・医薬品
1容器0.5キロまたは0.5リットル以下で、ひとり2キロまたは2リットルまで

 

これに加え、国内線では「封が開けられていないペットボトルの飲料は機内持ち込み可」、「開封済み飲料については、検査機にかけてチェックする」という流れになっている。つまり、条件が諸外国に比べてとても甘いのだ。ペットボトル飲料が機内に持ち込めるのは、確かに乗客にとってうれしいルールかもしれない。ただ、悪意を持つやからには「都合の良い規定」に見えるだろう。訪日客の中には、日本の例外的措置は「コワイ」「キモチワルイ」と感じる人もいるに違いない。

政府広報には「刃物類の持ち込み禁止」を促す文脈の中に、こんな記述がある。

もちろんほとんどの人は「本来の用途と違う!」「自分はハイジャックなどしない!」とお考えでしょうが、万一乗り合わせたハイジャッカーやテロリストに奪われる可能性はゼロとは言い切れません。

 

日本では国内線の安全管理に関し独自のルールを作った結果、それが世界標準とかけ離れてしまった。大きなトラブルが起こってからでは遅すぎる。「お客様へのサービス」のため、現状を維持するのか、それとも「新たな線引き」をどこかで図るのか。今後の展開を見守りたい。

さかい もとみ 在英ジャーナリスト

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Motomi Sakai

旅行会社勤務ののち、15年間にわたる香港在住中にライター兼編集者に転向。2008年から経済・企業情報の配信サービスを行うNNAロンドンを拠点に勤務。2014年秋にフリージャーナリストに。旅に欠かせない公共交通に関するテーマや、訪日外国人観光に関するトピックに注目する一方、英国で開催された五輪やラグビーW杯での経験を生かし、日本に向けた提言等を発信している。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』(アスク出版)など。問い合わせ先は、jiujing@nifty.com

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