日本の教育では、新しい時代を生き抜けない 田村耕太郎「海外子育て」の意義を語る

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シンガポール元首相リー・クアン・ユー首相と

――幼児期に英語環境で育てるとなると、多くの親から聞かれるのが日本語をどう教えるかという問題です。母国語が確立してから外国語を、という意見もあります。どのように考えられますか。

私は日本語も変わってくると思います。平安時代の日本語と江戸時代の日本語と明治の日本語と現代の日本語はまったく違います。21世紀の日本語はより簡素になっていき、英語や中国語の影響ももっと受けていくと思います。だから娘が現時点で完璧な現代の日本語を話せなくてもいいと思っています。

ただ、家では私は英語、家内は日本語で対応しています。実際、(娘は)1年でかなり日本語がおかしくなってきています。休みには日本に帰国して実家に連れて行き、祖父母やほかの家族に囲まれ、方言のシャワーも浴びてもらいます。

語学を学ぶには、小さいほど有利

――実際に移住してみて、お子さんの様子はいかがですか。

語学に関しては、実際、小さければ小さいほど有利ですね。2歳からシンガポールに来た彼女はすでにきれいな発音で英語と中国語を話し始めています。

多様性への慣れでも顕著な進歩を見せてくれています。15人のクラスに12の国籍。しかもその多くはミックス(日本で言うハーフとかクォーター)です。いろいろな顔や宗教や文化に囲まれ、体当たりしながら友達を作っています。

――教育のためシンガポールに移住する家庭は日本人以外にもいるのでしょうか。

教育移住者は多いと思います。しかし、シンガポールでは、親に労働ビザがないと原則学校に子どもを入れられないですし、そもそも物価が高い。日本人にとっては、昨今の円安でさらに生活費が高くなり、二の足を踏む人も多いと聞きます。

 ――「海外で育てると日本人としてのアイデンティティが育たない」という人がいます。このことについて、どう考えますか。

これも親御さんやご本人の考え方次第でしょう。私も日本で国会議員をしていて、保守的な地盤から自民党に入ったくらいですから、「グローバルシチズン」のような「根無し草」ではいけないと思っていました。

しかし、娘の学校に足しげく通い、教育現場を見せてもらい、シンガポールの多様性あふれる組織で仕事をし、シンガポールに暮らして、考えが180度変わりました。

今の私は“グローバルシチズン”でいいと思っています。2歳や3歳から「地球が舞台」という前提で、「世界の課題を解決するのだ」と教育されている娘たちの間では“グローバルシチズン”というアイデンティティはすでにしっかり存在していて、それは21世紀にふさわしいと思っています。

うちのクラスの多様な国籍の親たちといつもその話をしますが、誰一人アイデンティティクライシスを危惧している人はいません。

でも反論があっていいし、そう思わない人を説き伏せる気持ちもありません。意見の違いがあっていいと思います。

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