奇跡?劇的に清潔になる中国「トイレ事情」 あの悲惨なトイレがついに変わる?

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以前、同社は日本の免税店で中国仕様の便座を扱っていなかったが、「日本で買って中国で設置するといったサポートを受けたい」という日本旅行する中国人顧客の要望に応えた形で販売を決めた。便座に限らないが、中国人の中には、中国でもまったく同じ商品が売られているにも関わらず「中国より日本で売っている商品のほうがよいものに違いない」という思い込みにも近い“日本信仰”が根強くあり、それが日本での便座爆買いに結びついているからだ。

オフィスのトイレも変わり始めた

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同社の販売代理店を経営する張松泉氏によると、個人(一般家庭)への営業活動を積極的に行っているというが、オフィスビルなど業務用でも温水洗浄便座の導入は広がりつつある。

浦東地区にある超高層ビルなどでは、一部のトイレに女性が着替えをしやすいフィッティングボードや、個人用ボックス(女性社員がハブラシなど私物を入れるためのもの)も導入し始めるという。外資系企業などでは、オフィス内のトイレ設備も、女性社員への福利厚生の一環だと捉えており、「企業側がトイレを、ただ用をたす場所ではなく、リラックスできる場所だというふうに受け止め始めた」(深澤氏)ことは画期的なことだ。今に中国の一流企業のオフィスも、日本のオフィス並みに「きれいなトイレ」が当たり前になるかもしれない。

中国で展開する日系企業でも、温水洗浄便座までは設置されていないものの、トイレに対する意識改革が進んでいる。現在使っているトイレの掃除することで、社員の意識を変えていこうという試みもある。

以前取材したことがある上海市郊外の日系企業の総経理は中国人だったが、日本的経営を学び、日系企業で数十年間働いてきた人物。同氏の指導により、社員が率先してトイレ掃除をするようになったと話していた。

トイレ掃除をする広東省の日系刺繍メーカーの社員
 

その企業では「取引先がくると、真っ先にトイレを貸してください、というんです。うちのトイレは他の中国系企業よりもずっときれいだからだそうで、お客さんがそう話してくれたときには、とてもうれしかったですね。松下幸之助じゃないですけど、トイレ掃除をすると会社の運もよくなると思い、社員一丸となってトイレ掃除に励んでいます」と話していた。

広東省にある日系の刺繍メーカーでも、3カ月前から社員全員がトイレ掃除を熱心に行うようになった。同社の社長によるときっかけはこんな出来事からだった。

「ある取引先の日系企業の方々とうちの社員とで懇談していたとき、『ぜひ当社について悪いところを教えてください』と意見を求めたのです。すると、『トイレが汚い』という率直な声が挙がりました。正直に悪いところをいわれてうちの社員はびっくりしたみたいで……。でも、それが彼らのプライドを刺激し、翌日には5S委員会を立ち上げてトイレ掃除を開始。今では見違えるようにきれいになったんですよ」

 企業が目先の売上高だけでなく、社員の意識を変え、より快適な環境で仕事をするという部分に目を向けるようになったことは中国社会の大きな変化だ。その一端が、急速に改善しつつある「きれいなトイレ」に象徴されているような気がしてならない。

中島 恵 ジャーナリスト

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なかじま けい / Kei Nakajima

山梨県生まれ。北京大学、香港中文大学に留学。新聞記者を経て、フリ―に。著書に『なぜ中国人は財布を持たないのか』『中国人エリートは日本人をこう見る』『中国人の誤解 日本人の誤解』(すべて日本経済新聞出版社)、『なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?』『中国人エリートは日本をめざす』(ともに中央公論新社)、『「爆買い後」、彼らはどこに向かうのか?』(プレジデント社)などがある。

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