TPPが漂流すると日米とも痛手が大きい 8月末が合意のラストチャンス

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今回の閣僚協議の前に、国際貿易に詳しい日本のある関係者は、TPPが合意できれば、AIIBを活用したインフラ整備の枠組みで、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国にくさびを打ち込もうとする中国の戦略的意図に対し、大きなけん制的機能を果たすことができると述べていた。

もし、1カ月たっても合意ができない場合、来年の大統領選を前にレームダック化が進むオバマ政権が、年内の合意に向けて政治力を発揮できるのか、かなり不透明感が強まる。

この1カ月間で他の10カ国を説得して合意を勝ち取れない場合、日米は貿易面での利益だけでなく、戦略的な面での「利益」をみすみす手放すことになりかねない。

日本は推進エンジンの1つを失う構図に

一方、日本は経済的な面でも、推進エンジンの1つを失う構図となる。日本経済研究センターの試算では、2025年までに1050億ドルの所得押し上げ効果が日本にもたらされるという。

その中で指摘されているのは、TPPによって日本国内に外国資本の流入が活発化し、流通や物流などこれまで生産性の低かった分野での競争を促し、日本の成長率を押し上げるというメカニズムだ。

TPPが漂流した場合、こうした第3の矢にあたる構造改革の推進力が弱まり、そのことを海外の投資家が懸念すれば、株高トレンドにも影響しかねないとある国内金融機関の関係者は分析している。  

最終日の記者会見は予定より2時間半遅れて始まり、笑顔のないフロマン米通商代表部(USTR)代表と、甘利担当相がひな壇の中央に並んで座った。

関税撤廃を掲げてスタートしたTPP協議の中心に、農業保護政策をとる2つの大国が位置すること自体が、国益が複雑にからみあう貿易協定締結の難しさを物語っていた。 

(宮崎亜巳 編集:田巻一彦)

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