TPPは、牛丼チェーンなどにメリット 消費者にとっては選択の幅が拡大

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 7月29日、38.5%と関税が高い牛肉は、調達コスト低下効果が大きくなると予想される。都内で2006年9月撮影(2015年 ロイター/Michael Caronna)

[東京 29日 ロイター] - ワイン通から「コストパフォーマンスが高い」と評価されているチリワイン。その裏には関税引き下げというからくりが大きな働きをしていることは案外知られていない。

日本は2007年9月、チリと経済連携協定(EPA)を締結。ワインにかかっていた15%ないし1リットル当たり125円の関税が、12年間かけてゼロになる段階的引き下げの過程にある。

その結果、2013年にはチリワインの輸入量が10年前の約5倍に急増。フランスに次ぐ第2位の輸入先となった。日本でのワイン消費量の増加と関税引き下げの方向が見事に合致した結果とも言える。

今回の環太平洋連携協定(TPP)が妥結に至れば、多くの輸入品の関税引き下げが実現される。消費者は、ゆっくりしたテンポながら、値下げでTPPの恩恵を感じることになりそうだ。

<牛肉輸入価格、為替や相場で大きく変動>

外食産業にはコスト低減として効きそうだ。中でも38.5%と関税が高い牛肉は、調達コスト低下効果が大きくなると予想される。

ただ、関税引き下げのタイムスケジュールが不透明なほか、国際的な商品市況の動向などが価格を左右するため、各社は様子見となっている。

吉野家ホールディングス<9861.T>の河村泰貴社長は、TPPについて「追い風になることを期待する」と話す。同社は輸入する牛肉のうち80%以上が、38.5%の高関税が課せられている米国産を使用している。

国内メディアなどの報道によれば、米国産牛肉の関税は10年超かけて38.5%から10%程度に引き下げられる。また、豚肉は1キログラム当たり最大482円の関税を50円前後にするという。

関税引き下げが実現すれば、商品価格への反映が気になるところ。ただ、「輸入する際には現地での相場に関税や船賃、為替の影響などが加わる。関税が下がった分、イコールで商品価格が下がるメカニズムにはなっていない」(河村社長)と説明する。

昨年は、1キログラム1000円を超えた米国産ショートプレート価格。円安も加わり、牛丼各社は値上げ対応を余儀なくされた。河村社長は「新興国の需要が拡大するなか、急に牛(の生産)は増やせない。需給バランスは5年前、10年前とは異なったメカニズムになっている」と指摘。「今も基本的な構図は変わっていない。(価格の先行きは)楽観視できない」状況だけに、商品価格についての言及には慎重だ。

日本は、多くの農産物、乳製品、食品の原材料、半製品などに高率の輸入関税をかけている。楽天証券経済研究所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏は「仕入れ価格が下がれば、店頭での販売価格を下げるであろう小売企業よりも、外食やハム・ソーセージなどの加工会社のほうが、メリットは大きくなるだろう」とみている。

ただ、基本合意から実際にTPPが発効するまでには、まだ時間がかかるとみられる。このため「見守っている段階」(日本ハム)という企業が多い。

5割以上の食材を輸入しているすかいらーく<3197.T>でも「今の時点では様子を見ようという段階」。実際に動き出せば、品目ごとにチームを持つ購買部がメリットを得られるように、輸入先を考えていくことになるという。

<コメ・牛肉・豚肉で商品の幅広がる、輸出拡大も>

TPP交渉では、日本のコメの輸入枠拡大も焦点の1つ。米国以外にオーストラリアやベトナムからの輸入枠が設定される可能性もあり、結果次第で店頭に米国産や豪州産の主食用コメが並ぶかもしれない。

逆に日本側も日本産コメの輸出関税について交渉しており、世界で高品質を誇る日本産米が和食ブームとともに海外で普及する可能性もある。

アイリスオーヤマは、TPP妥結を視野に7月8日にコメの海外輸出を開始した。最初の輸出先としてマレーシアを選び、富裕層を狙って日本のブランド米をマレーシア伊勢丹を中心として小売店で販売する。今後は他の国にも販売を拡大したいとしている。

日本ハムは今月3日から、国産鶏肉のブランド「桜姫」のテレビコマーシャル放映を始めた。鶏肉ブランドのCMは過去にあまり例がない。

同社では「特にTPPを意識したタイミングではない」というが、国内市場での「ブランド指名買い」を促したい考え。

鶏肉に関しては関税が撤廃される見通しであり、価格の安い輸入鶏肉に対抗する国産ブランドとして認知されることも期待されている。

一方、米国食肉輸出連合会も、7月1日からテレビCMを含めた米国産ビーフのPRキャンペーン「ビーフといえばアメリカン」を展開している。TPPが妥結すれば、日豪EPA締結時に「オージービーフフェア」が店頭やレストランを賑わせたように、輸入肉の販売促進競争が展開されそうだ。

*タグをつけ再送します。

 

(清水律子、宮崎亜巳 編集:田巻一彦)

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