長老から見て、安倍首相の何が問題なのか 藤井裕久氏、「岸氏の姿勢とは異質のものだ」

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そもそも岸さんは筋を通す政治家でした。昔の政治家には気骨があったのですよ。

藤井氏はこう言う。それに対し、安倍首相は、憲法改正の要件を緩めようと96条改正論をぶちあげ、それも不可能と知るや、昨年7月には集団的自衛権を認めることを閣議決定してしまった。

そのようなやり方はきちんとした手続きを経ていない上、論理上の一貫性がありません。解釈改憲により表面的には祖父の遺志を継ごうとしていますが、果たしてそれで岸さんは喜ぶのでしょうか。

安倍首相は故意に事実をねじまげている

藤井氏が何よりも許せないのは、安倍政権が故意に事実をねじまげ、無理やり集団的自衛権を合憲の範囲に押し込もうとする点だ。安倍政権は、歴代政府が集団的自衛権を認めてきた根拠として、1959年の砂川事件判決と1972年の政府見解を挙げる。だがそれは正しくないという。

1959年の砂川事件最高裁判決は日米安保に関して判断したもので、集団的自衛権として積極的に肯定したものではありません。そもそも日本は司法消極主義をとっており、この判決でも統治行為論を採用しています。ここで『日本には集団的自衛権がある』と読みこむのには無理があります。

1972年の政府見解が、そもそも「曲解」と憤る。

当時の内閣法制局長官は吉國一郎氏で、彼が政府見解を作りました。その中ではっきりと『他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は憲法上許されないといわざるをえない』と明記されています。どこをどう読んだら、これが集団的自衛権を認めることになるのでしょうか。

そもそも「現行憲法はGHQの素人によってたった8日間で作られて押し付けられたもの」とする安倍首相の見解に対し、藤井氏は大きな疑問を抱いている。

現行憲法が作られた当時の首相は幣原喜重郎氏、外相は吉田茂氏です。幣原氏は戦前からその国際協調路線が『幣原外交』と称されていましたし、親英米派の吉田氏は戦中に和平を企てたという嫌疑で憲兵に拘束されたこともある。いずれも戦前戦中を平和主義で貫いてきた政治家たちです。現行憲法の基本原則のひとつである『平和主義』には、こうした先人たちの思いが込められているのです。現行憲法が単なるアメリカからの押し付けではあるというのは、とんでもない間違いです。

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