明治安田、「過去最高額」で米生保を買う狙い 堅実生保も"高値"買収に駆り立てられたワケ

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日本での記者会見では明らかにされなかったが、米国スタンコープ社からの発表資料には、「当社から相手先を探したことはないが、明治安田の提案内容が良かった」旨の文章があり、この買収劇が明治安田側からの求婚劇であったことがうかがえる。

日本の大手保険会社の企業買収における米国詣では顕著だ。市場規模が大きく安定成長性が見込め、一気に収益拡大につながる米国企業の買収は魅力的だからだ。逆にこれが買収金額を押し上げている。明治安田に限らず、日本企業が高値づかみの危険性と隣り合わせの状況にあることは十分に注意してみていく必要がある。

経験のない大型買収に不安の声

今回の買収で不安な点はまだある。明治安田は5カ国6社で海外事業を展開。米国ハワイをのぞき従来は現地の法規制などもあり、マイナー出資が基本だった。そこから一気に100%出資の大型買収に踏み切った。一定の取締役、社員は派遣するものの、スタンコープ社の経営陣は温存。引き続き経営の舵取りは任す。ただスタンコープ社の統合作業を含めて、はたして買収先企業を成長させていくことがいくことができるのかという難問が残っている。

第一生命の場合はプロテクティブ社の買収前に豪TAL社でマイナー出資から始めて100%子会社化に至る慎重なステップを踏み、成功させた経緯がある。東京海上は2008年の英キルンから始まる一連の欧米大型買収に先立ち、1980年に当時としては巨額の価格で買収した米国損保のヒューストン・ゼネラル社を結局1998年に売却する、という手痛い経験が隠れた財産になっている。明治安田にはこのステップを飛び越えた壮大な実験に踏み込むこととなり、そこにはいくばくかの不安が拭えないことも確かである。

日本生命も10年間で最大1.5兆円の巨額投資枠を用意して、海外での大型買収を進める方針。これも人口減少圧力の中、10年タームでの国内市場縮小が確実に視野にあるからだ。その意味で成長余地のある海外事業の本格強化は、日本の大手保険会社にとっては待ったなし。日本の大手生保では保守的な社風、堅実経営で知られる明治安田の今回の"変身"劇。海外事業に関しては、ルビコン川を渡った同社が内外の不安を払拭することができるか。今回の買収案件が、その大きな試金石となることは間違いない。
 

大西 富士男 東洋経済 記者

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おおにし ふじお / Fujio Onishi

医薬品業界を担当。自動車メーカーを経て、1990年東洋経済新報社入社。『会社四季報』『週刊東洋経済』編集部、ゼネコン、自動車、保険、繊維、商社、石油エネルギーなどの業界担当を歴任。

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