戦後70年、いまだに敗戦国扱いされる日本 国連とは第二次大戦の「連合国」の意味である

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日本が国連に加盟したのは1956年、以来延々60年にわたって国連外交を政策の重要な柱として優等生的な役割を果たしてきたことは、多くの日本人の間ではほぼ常識となっているだろう。

見逃せない、中国の変容

たとえば、直近の国連向け加盟国負担金の割合を見ても、そのことは一目瞭然である。2015年1~12月までの国連通常予算で日本の負担金は、概算で356億円(割合は10.83%)、2014年7~2015年6月までの国連平和維持活動(PKO)の予算分担金は1112億円(割合は10.83%)となっており、2つのカテゴリーとも加盟国中第2位である(1位は米国)。

これは国連安保理常任理事国のイギリス、フランス、ロシアよりも多い。

当然のことながら、日本は多額を負担しながら、敵国条項が存在する状態に抗議を続け、1995年の第50回国連総会では憲章特別委員会による旧敵国条項の改正削除が賛成155、反対0、棄権3で採択され、同条項の削除が正式に約束された。

しかし、憲章改正には安保理常任理事会5カ国を含む加盟国3分の2以上に批准されたうえでの発行となっており、これらの国が批准するかどうかは各国の自由である。敵国条項は死文化しているとして、敗戦国とされた日本、ドイツなどの国以外にはあまり関心を持たれず、実際の国連活動には支障がないとされているが、昨今の事情はこのような見方を許さなくなってきている。

戦後70年をファシスト日本に勝利した戦勝記念として大々的にアピールする中国の存在がそれである。事実、中国は国連の場で尖閣諸島を巡る問題に関して「第二次大戦の敗戦国が戦勝国中国の領土を占領するなどもってのほかだ」(2012年9月27日)と日本を名指しで非難しているのだ。

つまり中国は、国連の場で暗に敵国条項を意識した発言を行ったわけである。スプラトリー諸島の埋め立ての例を挙げるまでもなく、東シナ海での尖閣に対する領海侵犯、さらには勝手に防空識別圏を設定するなど、国際海洋法などの国際法をことごとく無視してきた中国が、70年前の条文を案に持ち出してきた。

1945年の終戦当時、成立もしていなかった中華人民共和国が国連敵国条項を持ち出して、自らを戦勝国と位置付けるカードとして使っているわけだ。事実上は死文化していると言われていても、敵国条項は未だに削除されていない。

日本は敵国であるがゆえに、戦争はもとより国際紛争を解決する手段としての武力行使は認められていない。日本国憲法でもそのための明文規定である第9条が存在している。日本が敵国であるままで、集団的自衛権行使容認の解釈変更を閣議決定して、平和維持活動(PKO)の枠を超えて多国籍軍に参加したり、あるいは国連平和維持軍(PKF)に参加したりすることは、論理上は真っ向から敵国条項に衝突することになる。

このような論理を持ち出してくる中国は、国連の場において戦勝国の資格のない自己矛盾もお構いなく、日本国家の選択肢を狭めようとするばかりでなく、国連安保理の常任理事国である限り、いつでも敵国条項を持ち出して、日本の安保理常任理事国就任の道を閉ざす口実になるのである。

なお、今回の記事でふれた国連の「敵国条項」については、7月16日発売の拙著『日本人だけが知らない「終戦」の真実』(SB新書)でもふれている。併せてご一読いただきたい。

松本 利秋 ジャーナリスト

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まつもと としあき

1947年高知県安芸郡生まれ。1971年明治大学政治経済学部政治学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了、政治学修士、国士舘大学政経学部政治学科講師。

ジャーナリストとしてアメリカ、アフガニスタン、パキスタン、エジプト、カンボジア、ラオス、北方領土などの紛争地帯を取材。TV、新聞、雑誌のコメンテイター、各種企業、省庁などで講演。著書に『戦争民営化』(祥伝社)、『国際テロファイル』(かや書房)、『「極東危機」の最前線』(廣済堂出版)、『軍事同盟・日米安保条約』(クレスト社)、『熱風アジア戦機の最前線』(司書房)『「逆さ地図」で読み解く世界情勢の本質』(SB新書)など多数。


 

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