日本の生産技術はいったい何がスゴイのか

「教科書を超えた 技術経営」を読む

現場発の経営のあり方を具体的、多面的に示す

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主に「生産技術」のもつ重要性に焦点をあて、現場発の経営のあり方を語った本である。技術者による、技術者のためのマーケティング、既存の技術(枯れた技術)の生かし方、グローバルニッチトップの獲得、感性に働きかけるデザイン、創意工夫の宝庫としての現場力、コンセプトの具体化。顧客を通して成功する組織統合、といった多岐にわたるテーマを、具体例によって丁寧に説明している。

たとえば、技術マーケティングとは、顧客の言いなりになるのではなく、複数の顧客との対話を通して、個々の顧客以上に専門知識を蓄積し、顧客にとってよりよい提案をすることである、と指摘する。たしかに大企業でも中小企業でもB2B(企業間取引)のメーカーの強い取引関係は技術的提案力を基礎としている。特に部品や素材、あるいは各種のデバイス類を手がけている場合は、自らの専門的技術によって、相手先(顧客)へ、よりよい生産方法を提案することによって関係を深めていく。

しかもそれは単なるマーケティングの方法論に限らない。異なった技術体系、異なった企業文化をもつ企業が合併した事例を本書は取り上げる。人事や技術など、それぞれの歴史をもつ組織は、主導権争いなども含め、簡単には融合しない。つまり合併はしばしばマイナスの効果をもたらす。そこで生じる摩擦をどのように乗りこえるか。

本書のJFEの事例では、顧客の望む製品の技術開発に協働で取り組むことによって、二つの会社が融合するプロセスが紹介されている。新しい商品や技術の研究開発や、成功したマーケティングなどに関する「経営論」はたくさんある。しかし本書のような生産技術のもつ重要性を語ったものは少ない。

現場で調査しているとよくわかるのだが、生産設備・生産技術は、オリジナルな競争力そのものである。それは完成品(商品)を分解(リバースエンジニアリング)しても内容はわからない。またナンバーワン、オンリーワンあるいはニッチトップの座を占めている企業はたくさんある。その「秘密」の多くは、先端技術によってではなく、既存技術の「束」で形成されている。詳しくは本書を読んで欲しい。スマートフォンなどに欠かせない素材の製造など、「強い現場」の形成過程がよくわかる。

「現場」といえば、東日本大震災からの復旧を果たしたマニアルにない技術的対応や、火災に見舞われたアイシン精機とその周辺の部品メーカーの取り組みなど、本書が示す日本の生産技術は素晴らしい。生産技術の積み重ねと生かし方の重要性を通した経営実務の書である。

著者
伊丹敬之(いたみ・ひろゆき)
東京理科大学大学院イノベーション研究科教授一橋大学名誉教授。1945年生まれ米カーネギー・メロン大学経営大学院博士課程修了。一橋大学大学院商学研究科教授を経る。著書に『経営戦略の論理』『マネジメント・コントロールの理論』など。

 

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