石巻市雄勝地区で診療所開設が実現、災害医療の専門家が常勤医として赴任

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石巻市雄勝地区で診療所開設が実現、災害医療の専門家が常勤医として赴任

東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県石巻市雄勝地区で、10月5日にプレハブ建築ながら常設の「石巻市立雄勝診療所」(上写真)がオープンする。新たに赴任した常勤医師1人および看護師3人、事務職員1人の5人体制で、週5日にわたり診療を開始する。

雄勝地区では、病床を持つ唯一の医療機関だった石巻市立雄勝病院(病床数40床)が津波被害で診療機能を喪失。地区内にあった医科診療所および歯科診療所も津波で全壊し、一時、無医地区になった。
 
 震災直後から今まで、日本赤十字社が救護所や地区内の避難所での巡回診療を継続。4月下旬から東京都内の開業医が日曜日と月曜日の2日間、診療を続けてきたが、週5日間にわたる医療機関による診療は半年ぶりのことだ。
 
 石巻市の職員として新たに赴任した小倉健一郎医師は、国内のみならず、スリランカや中国・四川省などで災害医療支援を行ってきた。東日本大震災では、岡山県に本拠を置く特定非営利活動法人アムダ(AMDA)の医療チームの一員として石巻市や南三陸町などで巡回診療に従事した。
 
 その後、非常勤医として籍を置く神戸市の医療機関にいったん戻った後、再び被災地に戻って医療活動に従事すべく、宮城県に支援の意思を伝えた。それがきっかけとなって雄勝地区への赴任が決まった。7月下旬のことだ。


■小倉健一郎医師

    
 震災当初、石巻市は雄勝地区での診療機能の回復に消極的な姿勢を示していたが、地域住民から亀山紘市長宛てに医療体制確保の要望書が提出されたのをきっかけに、診療所建設に向けて動き出していた。

震災前、4300人の人口を擁していた雄勝地区では、総合支所(旧雄勝町役場)や小中学校、漁協、商店街などが軒を連ねていた地区中心部が全壊。地区内の漁港や海沿いの集落も、そのほとんどが津波で大きな被害を受けた。

現在、地区人口は1000人前後まで減少しており、住民の多くは石巻市の他地域や市外に避難している。市内にあった特別養護老人ホームも入所者を山形県内の施設に避難させたままで、デイサービス(通所介護)など多くの介護サービスも休止状態が続いている。そうした状況が続くだけに、常設診療所の開設には大きな意義がある。

小倉医師の眼に雄勝地区はどう映っているのか。
 
 「職場や学校がなくなってしまったことで、高齢者を支える世代の多くが地域からいなくなった。そのため、独居の高齢者や老老介護世帯が目立つ」(小倉医師)。「若い人たちが戻ってくるためには地域の復興が不可欠だが、その前段階として診療所の役割は大きい」と小倉医師は語る。


■診療所開設を石巻市長に要請した大和久男・雄勝地区震災復興まちづくり協議会会長

(岡田 広行 =東洋経済オンライン)

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