北朝鮮、携帯電話市場への新規参入はあるか 北朝鮮側からみた携帯キャリア事情

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実際に、ある在日コリアンは2012年秋に日本海側の主要都市・元山(ウォンサン)市を訪れた際、高麗リンクと契約した携帯電話を利用してみたところ、自動的に強盛網に接続されていたと証言する。また、北朝鮮国内用のSIMカードを挿して接続してみると、こちらも強盛網に接続されていたという。

さらに、通信料の支払いを内貨(北朝鮮ウォン)にしたのも、高麗リンクへの配慮だと説明する。外貨が流通している北朝鮮とはいえ、市民の多くは内貨をより多く所有する。その内貨で通信料を支払うことができるという便宜性があるからこそ、260万人というユーザーを高麗リンクが獲得したのだとユン処長は言う。

問題になっているとされるOTMTの利益問題については、「OTMT側がそのような問題を提起しているということは一度もない」(チェ局長)。OTMTには(北朝鮮)内貨が山のように積み上がっているが、送金問題を提起されたことは一度もないと打ち明ける。むしろ「OTMT側は再投資を希望しているようだ」とチェ局長は打ち明ける。

利益換算、利益持ち出しが問題に

だが、「まさにその点こそ、OTMTをとりまく問題の大きな一つだ」と、韓国のある北朝鮮研究者は指摘する。二重為替レートが存在することで、同じ内貨でもどちらのレートを採用するかであまりにも差が大きい。北朝鮮がそのような主張をするのは、内貨(北朝鮮ウォン)でユーザーが料金を支払い、その内貨は通常、市場レートで換算される。だからOTMT側の取り分も、当然、市場レートで換算されるべきとの考えがあるからかもしれないと、この研究者は言う。

パク・ミョンチョル局長

「OTMT側がこのような為替事情を契約時にきちんと認識していなかったのか、あるいは認識していたものの、これほどの差があるとは想定していなかった可能性がある」(同)。いずれにしろ、朝鮮逓信社側は「そのような問題はない」と主張する。ちなみに、平壌などでの公定レートは現在1ドル=100ウォン前後、市場レートは同=8100ウォン前後で推移している。

朝鮮逓信社のパク・ミョンチョル社長(51、男)は、国内の移動通信事業が拡大したことについて、OTMT側の積極的な努力と北朝鮮国内の移動通信利用への強い需要、そして強盛網を立ち上げたスタッフたちの努力を上げる。ユン処長は、「2011年にOTMTのサイラス会長が訪朝した際、100万人のユーザーを獲得するのが自分の夢と言った」と打ち明ける。サイラス会長は、ユーザー獲得数が50万であれば成功になり、100万になれば夢がかなうと繰り返し口にしていたようだ。

新事業者選定の報道と北朝鮮側との利益問題、サイラス会長の発言の真偽についてOTMT社に質問したが、7月25日までに回答はなかった。

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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