対話の技法/対話の苦しみ 善意が無に帰するとき

だが、そういった中に一人、「すごかった。ひどかった」としか言わない若者がいた。「だから、また行く」のだという。その訥々(とつとつ)とした言葉に「共苦」を感じた。この若者であれば、苦悩する人々に拒絶されても、対話的に消化していくことができるだろうと思ったものである。

もちろん、これほど極限まで突き詰める必要はない。自分なりの善意や正義感で、それが相手に迷惑と受け止められようとも、行動することが必要だということである。当然、行動すれば衝突する可能性もある。だが、衝突するからこそ、対話の必要性も生じるのだ。

対話とは、個々の「違い」を隔離して、平穏無事に共存する方法ではない。「違い」を衝突させ、混沌とした状況に苦しみながら、共存の道を模索する方法なのである。


北川達夫(きたがわ・たつお) 
日本教育大学院大学客員教授■1966年生まれ。早大法学部卒、外務省入省。在フィンランド大使館に8年間勤務し退官。英、仏、中国、フィンランド、スウェーデン、エストニア語に堪能。日本やフィンランドなど各国の教科書制作に携わる。近著は『不都合な相手と話す技術』(小社刊)。(写真:吉野純治)


(週刊東洋経済2011年10月1日号)
※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
関連記事
トピックボードAD
人気連載
トレンドライブラリーAD
  • コメント
  • facebook
0/400

コメント投稿に関する規則(ガイドライン)を遵守し、内容に責任をもってご投稿ください。

アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • いいね!
トレンドウォッチAD
高崎高島屋の売り場革命

閉店が続出する地方や郊外の百貨店。逆風の中、高崎高島屋は全国的に有名な和菓子店や化粧品ブランドを次々と誘致し、集客を伸ばす。地方百貨店の活路を示す取り組みをリポート。