JR九州の新列車は「ななつ星」より儲かるか 幻の「或る列車」がいよいよお目見え

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「ななつ星」の公開式典であいさつする唐池会長(撮影:梅谷秀司)

気になるのは、これだけの費用をかけて、はたして採算が取れるのかということだ。

ななつ星について、JR九州の唐池恒二会長はかつて「30億円の投資額は10~15年で回収していく」と語っていた。その後料金の値上げも行っているので、年間の売り上げは当初予想よりも多い10億円程度と推計される。それにしても息の長いビジネスであることは間違いない。

一方、或る列車は満席なら1日1往復で160万円程度の収入が見込まれる。運行日が年200日程度と仮定しても、年間売り上げは3億円を超える計算だ。諸費用を見込んでも、投資採算性はななつ星よりもよさそうだ。このあたりについては、2016年の株式上場を意識してのことかもしれない。

観光列車は収益柱になるのか

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JR九州が誇る豪華観光列車「ななつ星in九州」(撮影:梅谷秀司)

その先の展開について、青柳社長は「次の観光列車をぜひ出したい」と意気込む。「われわれの観光列車は1つひとつ個性が違う。今後も違う列車を出して、列車旅の楽しみの幅を広げていきたい」。

同社の観光列車の乗車率は、いずれも6~8割と好調を維持している。「ゆふいんの森」は、「九州旅行をする外国人観光客のあこがれ」(旅行関係者)とも言われ、今月18日からは新たに製造した車両を増結して5両編成で走るほどの人気ぶりだ。

JR九州に対する株式市場の見方は、中核の鉄道事業が収益力に乏しく、マンションなど多角化事業が成長のカギを握る、というのがもっぱら。だが、そうした見方に反発するかのように、同社はその鉄道事業で観光列車戦略に邁進する。

先行して上場したJR東日本は首都圏の鉄道網、JR東海は新幹線という収益柱を持っている。JR九州の観光列車がそこまでの収益柱に育つというシナリオは難しいかもしれない。だが少なくとも、そう期待させるだけの勢いが現在のJR九州にあることは間違いない。

(撮影:今井康一)

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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