テラモーターズは、だから世界市場へ挑む 父親を乗り越えて出発点に立った

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徳重さんはシリコンバレーで活躍する傍ら、自らの人生を賭けることができる大きなビジネスビジョンを考え続けていました。グローバル、そしてイノベーティブなビジネスであること。日本の旗印の下で、世界で勝負できる技術を持ってパラダイムシフトを起こすことができる分野を2年に亘って考え続けた結果、たどりついた答えがEV(Electric Vehicle:電気自動車)でした。

「20世紀はエンジンの時代でした。しかし、これからは電動モーターが来ます。世界の環境・エネルギー問題に対応していくためには、電動モーターが来る。このEVで、世界でもっとも成長しているアジア市場を席巻する会社をつくってみせると思ったのです」

バングラデシュのテラモーターズメンバー

それが2010年に徳重さんが創業したテラモーターズです。そして、テラモーターズはわずか2年の間に電動バイクで日本国内シェアNo.1を獲得、その後、インドやベトナム、フィリピン、バングラデシュなどに矢継ぎ早に進出し、モノづくり系ベンチャーとしては最も注目される存在となりました。

日本人はメンタリティを変えないといけない

現在、多くの時間をアジアの新興国の現場に費やしている徳重さん。時によっては単身で新興国のトップ企業との交渉の場に臨むなど、ビジネス拡大の最前線に身を置いています。そんな経験から、新興国と日本の現状を比較して、日本人が失ってしまったビジネスメンタリティについて次のように言っています。

「私たちはメンタリティを変えていかないといけないのです。まず、ハングリー精神。日本は無菌社会になってしまって、若い人たちもリスクや挑戦を過度に恐れるようになってしまった。新興国ではチャンスがあれば何でもやる、という人たちに溢れています。これでは私たちはビジネスチャンスを手にすることはできないのです。そしてもうひとつ、私たちは物ごとを考えるスケールが小さくなってきている。中国の携帯電話会社シャオミは、わずか5年で1兆円企業になっている。世界市場は新興国を中心にすごいスピード、すごいスケールで動いているのです」

「しかし、何よりも日本人が今失っているものは、『志』、そして『信念』ではないでしょうか? 明治時代、そして戦後、日本をつくっていったのは若者の志でした。しかし、今、日本は厳しい状況に置かれているにも関わらず、若者の志レベルは決して上がっているとは言えない。私はそんな日本社会を変えたいと本気で考えています」

最後に、テラモーターズのホームページの設立趣旨書には以下のようにあります。

【お知らせ】 マザーハウスでは、本連載のテーマ「挑戦者たちの朝」に合わせてマザーハウスカレッジを行っています。次回開催は10月を予定しております。詳しくはこちらをご参照ください

「日本社会、特に若者をインスパイアして、世界で勝負すること、高いハードルを乗り越えリスクに挑戦することが当たり前の日本社会をつくる事に貢献します。今こそ、日本全体がもう一度立ち上がる時です。Terra Motorsはその先頭に立ち、日本人の誇りを蘇らせます」

徳重さん、そしてテラモーターズのビッグビジョンはまだ始まったばかり。世界市場で厳しい戦いが続いている日本のモノづくり企業。その中でテラモーターズは新しい日本のモノづくり企業の光となり、日本全体に勇気を与えることができるのか。今後も目を離せない存在になりそうです。

山崎 大祐 マザーハウス 副社長

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やまざき だいすけ / Daisuke Yamazaki

1980年東京生まれ。高校時代は物理学者を目指していたが、幼少期の記者への夢を捨てられず、1999年、慶応義塾大学総合政策学部に進学。大学在学中にベトナムでストリートチルドレンのドキュメンタリーを撮影したことをきっかけに、途上国の貧困・開発問題に興味を持ち始める。2003年、大学卒業後、 ゴールドマン・サックス証券に入社。エコノミストとして、日本及びアジア経済の分析・調査・研究や各投資家への金融商品の提案を行う。2007年3月、同社を退社。株式会社マザーハウスの経営への参画を決意し、同年7月に副社長に就任。副社長として、マーケティング・生産の両サイドを管理。1年の半分は途上国を中心に海外を飛び回っている。

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