新基準で初めて再稼働の川内原発に残る疑問 「合格=安全ではない」と規制委員長も明言

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また、自治体が策定する防災避難計画は、審査の対象になっていない。米国では、連邦緊急事態管理庁(FEMA)という専門機関が避難計画の実効性を審査し、同国の原子力規制委員会もプロセスに深く関与している。

2014年に規制委委員を退任した大島賢三氏は、「日本版FEMAのような組織を作り、プロが関与することが必要。今やっても遅くない」と提言した。が、いまだ実現の動きはない。

田中委員長自身、かねて「規制基準と防災は車の両輪」と強調してきた。ただ、現在の法体系上、避難計画の実効性を評価する立場にない、と繰り返している。それでも新規制基準は世界最高レベルと訴えるのは妥当なのか。

 いまだ再稼働反対が過半数

地元合意の対象を都道府県と立地市町村に限定している現状など、再稼働に至る過程についてはほかにも問題点が指摘されている。だが、今の自民党政権に、見直しに取り組む姿勢は見受けられない。

川内原発の周辺に立つ「原発反対」と書かれた看板(撮影:尾形文繁)

それどころか今春の電源構成の議論のように、原発依存度を高めに維持するため、規制委自身がまだ一基も許可していない老朽原発の運転延長を、長期目標に織り込む始末だ。これでは世論で再稼働反対が過半を占める現状も仕方ない。原発は安全性の追求が大前提ということを、あらためて問う必要がある。

「週刊東洋経済」2015年7月25日号<21日発売>「核心リポート03」を転載)

中村 稔 東洋経済 編集委員
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