セミナーレポート

共創マーケティングフォーラム2015 体験価値、インパクト、記憶に残る感動、
マーケティングは顧客デザインの時代へ

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SNSや自社コミュニティサイトなどを活用したコミュニティマーケティング戦略を考える「共創マーケティングフォーラム2015」が6月、東京・港区で開かれた。ファン醸成、販売拡大、さらには商品開発における顧客コミュニティ活用事例が報告され、会場を埋めた参加者は熱心に耳を傾けた。
●主催:東洋経済新報社 ●協力:イーライフ

【基調講演】
顧客デザインの時代

西川 英彦
法政大学 経営学部教授

法政大学の西川英彦氏は、メーカーが製品・サービスを顧客に提供するという従来の方向と異なり、「顧客のデザインを企業が活用する」という新たな関係について語り始めた。事故で車いす生活になったエンジニアが「歩きたい」という思いから、ロボティクスに挑んで開発した装着型歩行アシスト装置を例に「顧客は、先端分野でも果敢にデザインしイノベーションを起こしている」と西川氏は指摘する。

顧客デザインのメリットは、大きく二つあるという。一つは、低い失敗リスクで高い創造性を持つ革新的新市場を生み出せること。新製品の事前予約で売れない商品をスクリーニングするなど、顧客のコミットメントで失敗リスクを抑制。さらに顧客デザインの商品は、社内専門家が開発した商品と比べて新規性が高く、売上額も高いという調査結果を示した。もう一つは、企業が顧客のエンパワーメントを受けることで、ほかの顧客にも影響し、購買意向やロイヤルティを高める『ラベル効果』を期待できることだ。

ただ、日本に390万人程と推計される顧客イノベーターだが、製品分野では1万人に1人くらいしかおらず見つけ出すのは難しい。ある通販会社は、顧客アイデアを募集するコンテストを開催し、アイデアを企業にわかりやすく説明するツールキットを用意するなどの工夫を凝らしている。また、カイトサーフィンのコミュニティが公開した試作デザインを商品化した第三者企業が、その分野のトップメーカーになった事例を紹介した西川氏は、「コミュニティとの関係維持の負担は重いかもしれないが、顧客デザインは避けては通れない」と、企業に取り組みを促した。

【特別講演】
オルビスブランドの進化に向けた取り組みとSNS戦略

阿部 嘉文
オルビス 代表取締役社長

化粧品等の企画開発・通販を手掛けるオルビスは、商材多様化や割引クーポン活用で売上規模を拡大してきたが、2007年をピークに業績は停滞に入った。成長性、収益性の改善に向け同社社長の阿部嘉文氏は「『オイルカット』という独自の価値を磨き、その価値を高めるために商品に加えコミュニケーションも変革するというブランド再構築に取り組んできた」と話す。

1984年設立のオルビスはカタログ、電話通販が中心だったが、現在はECチャネルが全体の約6割を占める。そこで、電話での直接的なやりとりの減少を補い、顧客とのコミュニケーションを向上させるため、SNSの特徴を生かしたコミュニケーションに取り組んだ。SNSを通じたアクティブサポートでは、疑問や不満が感じられるつぶやきを見つけて、スタッフが回答やサポートを提供。満足している様子のコメントには、お礼とプラスαの情報を伝える。阿部氏は「電話でやりとりしていたときのように感謝を伝え、疑問や不満を解決して、ブランドへの正しい理解、好感度を高めることを意識している。ただし、ネットの場合は『聞かれたら答える』といった適度な距離感も大事」と、一方的な売り込みの情報発信ではなく、双方向のコミュニケーションを重視する。

一方で、深いコミュニケーションは、アンケートサイト「キクラボ」などのオウンドメディアを活用して補完する。同社のコーポレートメッセージ「変わる人は、美しい」について言及した阿部氏は、「通販も変革の時代を迎える中、われわれ自身も変わっていかなければならない」と決意を示した。

【事例講演】
ロイヤルカスタマーの育成と共創マーケティング

岩崎 育夫
森永製菓
マーケティング本部広告部
デジタルコミュニケーション担当

森永製菓の会社や商品に関するSNSアカウントにいる森永ファンは、延べ30万人に及ぶという。「デジタルコミュニケーションによって、これまで流通の向こう側にいたお客様との距離が縮まってきた」と、同社の岩崎育夫氏は手応えを感じながらも「つながりが緩いSNS以外に、長期的な参加を得るようなファンの組織化が必要だった」と、コミュニティサイト「エンゼルPLUS」開設の狙いを語る。

同サイトは、ファン同士やファンと社員の交流の場の「掲示板」をメインに、気軽に意見表明できるアンケート、会社側から情報を発信するブログなどで構成。専門の運営ノウハウを持つパートナー企業・イーライフと連携したことで、サイトを上手に盛り上げ、顧客からの活発なアクション維持に成功している。開設半年後からは、新製品を含めた商品の推奨者養成に向けたアンバサダー企画、2年目からは菓子作りワークショップなど、オフラインのイベントへ活動の幅を広げた。岩崎氏は「ファンからアンバサダー、パートナーへとステップアップしていただき、将来は商品企画などの“共創活動”を行うプラットフォームにしたい」と意気込む。

コミュニティは、手軽なモニター調査の実施や、掲示板をテキストマイニング分析に活用することも可能で、貴重なデータの宝庫になる。推奨意向を数値で示すNPS(Net Promoter Score)を測定して、購買拡大への効果を示すなど、社内の理解を得る努力を続ける岩崎氏は、「コミュニティがファンの気持ちを日常的につなぎ留めることで、マス広告やキャンペーンを打った際の効果を高められると考えている」と、その意義を強調した。

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