(第68回)ペットと少子高齢化の話(その2)

山崎光夫

 私がその昔、下宿していたころ、同じアパートにいた学生がドッグフードを備蓄していて、手軽さを追及するあまり、非常食代わりに食べていた。一見、かりんとうを思わせる乾燥した丸い梅干大の粒だった。
 「便利なものができた」
 と愛用(愛食?)していた。  そんなもの食べて大丈夫かと心配したものだが、別に寝込んだりしていなかったところをみると安全だったようだ。最近では、産地や品質にこだわった缶詰も当たり前になって、ペットフードの高級化、人間化が進んでいるらしい。

 ペットも高齢化すると人間同様、徘徊したり、行方不明になったりもする。高齢者が高齢ペットを看る“老老介護”も珍しくない。

 いなくなったペットを見つけるペット捜しの会社も忙しいという。電信柱や地元のスーパーにペットの特徴を記した張り紙や写真を見かけもする。
 懸賞金までついているのもある。自宅から半径1キロメートルがまず探索範囲となる。

 いなくなったペットが無事帰るように祈るおまじないもあるようだ。
 そのひとつ・・・。
 在原行平(ありわらのゆきひら)の歌を書き綴った紙をペットの寝床や玄関先に張って置くといいという。
 「立ち別れいなばの山のみねにおふる
             まつとし聞かば今帰り来む」
 (「百人一首」第16番)
 藁にもすがりたい気持ちの飼い主には強い味方の一首である。

 ある鍼灸院での話--。
 鍼灸院がペットを癒やす場所になっている。犬や猫がマッサージをしてもらったり、鍼治療を受けている。
 ペット用の漢方薬もあるほどだから、鍼やマッサージなど当たり前かも知れない。専門家向けに犬や猫のツボを示す経絡(けいらく)の模型もある。
 たとえば、「百会(ひゃくえ)」のツボ。
 人体では頭頂部の中央にあり、ここへの刺激は、心身の疲労、不眠、頭痛、めまいなどに効く。
 猫にも百会のツボがある。場所は背中で、腰椎の最後部の後ろにあるくぼみ部分。坐骨神経痛や下半身の麻痺などに効果がある。
 猫が治療を受けている隣りで、ペットを亡くして悲しみに暮れるペットロスの患者が横たわっている。ストレス性の体調不良に陥り鍼治療を受けている。
 ペットロスの人間と病気のペット--。
 ある鍼灸院の一風景である。

 アメリカの大手製薬会社では失業や不況もあって、収益はダウンしマイナス成長を呈している。だが、その中にあってアニマルヘルス事業関係は着実な伸びをみせ収益に貢献している。
 アニマルヘルス部門では、家畜やペットのワクチン、寄生虫薬、感染症薬など、予防と治療のための需要が高まっている。動物さまさまだ。
 日本でも、飼い主はペットに手厚い治療を受けさせたいというのが人情。
 このデフレ時代にあって、ペット産業の未来は猫の手も必要となりそうだ。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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