同時多発テロから米国が学ぶべきこと--ジョセフ・S・ナイ ハーバード大学教授

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10年前にアルカイダが行った対米攻撃は、米国内外の世論に深刻なショックを与えた。10年経った今、われわれはどんな教訓を学ぶことができるのか。

飛行機でワシントンに入り、オフィスビルを訪ねようとした人なら誰でも、同時多発テロによって、いかに米国の警備が変化したかに気づかされる。テロに対する懸念は強まり、移民に対する制限は厳しくなったものの、同時テロ後しばらく続いたヒステリー状態は沈静化した。米国内で新たな大規模攻撃は発生せず、日常生活は順調に回復した。

だが、同時テロの長期的な重要性について誤解してはならない。私は自著『スマート・パワー』の中で、このグローバルな情報時代における最大の権力シフトは、非国家主体の勢力増大だと論じた。アルカイダは、1941年の日本政府による真珠湾攻撃よりも多くの米国民を殺害した。このことは「戦争の民営化」と呼べるかもしれない。

冷戦当時、テクノロジーの観点で言えば、米国はソ連からの核攻撃に対して、もっと脆弱だった。しかし、「相互確証破壊」は双方の脆弱性をほぼ均衡させることで最悪の事態を防いでくれた。ソ連は強大な武力を手にしていたが、武器によって米国を支配する力を手に入れることはできなかった。

2001年9月、2種類の不均衡がアルカイダを有利にした。

第一に情報の不均衡があった。テロリストたちは攻撃対象について十分な情報を持っていたが、米国はテロ組織の正体と拠点について不十分な情報しか持っていなかった。政府の報告書で、非国家主体が大国に与えうるダメージについて予想したものがあったが、そうした結論は当局の計画に組み込まれなかった。

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