日本は再生医療で世界に貢献できる 岡野光夫・東京女子医大名誉教授に聞く

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――条件付き承認制度ができたので、数年後には再生医療製品もどんどん出るようになりますね。

数年もかからないと思う。テルモの骨格筋芽細胞シートは法律改正の前に治験をしていたし、これからどんどん新しい製品が世の中に出てくることになると思う。これまで薬で治せなかった病気を治すことができるようになる。遺伝子や細胞治療の技術は日々進化しているので、今後、根治できる病気も出てくる。一生薬を飲み続けなくてもよくなればこれほどすばらしいことはありません。

大勢の患者を治すには産業化が必須

――法律改正で体制が整ったと言われますが、万全なのでしょうか?

とても万全とはいえない。たとえば、細胞・組織バンクの問題がある。今後ずっと自家(自分の細胞)で治すわけにはいかない。時間もコストもかかりすぎる。他家(他人の細胞)ですむのであればそのほうがよい。他家の研究はヒトの細胞を使わないとできないが、日本では角膜移植などの移植手術で、残った細胞は焼却処分にしなければいけないことになっており、患者のための研究に使えない。研究のためのヒトの細胞はバンクの仕組みが整った米国から買ってこなければならない。まだまだ制度は遅れています。この状態で「整備ができました」なんて、恥ずかしくてとても言えない。

既存の薬と細胞とを併用して治すなどの混合診療の問題も考えなければならない。細胞治療は保険適用されているものがまだ数少ない。自由診療である細胞治療と組み合わせたとたんに既存薬の保険も適用されなくなり、自由診療扱いになってしまいます。しかし、法改正によってこれも、今後改善が進むとみている。

――今後の再生医療の普及のカギを握るのは何でしょうか。

大勢の患者を安全で効果的に治すには、産業化する必要がある。医師が目の前の患者だけを治せばいい時代ではない。臨床研究で何人か治したところで止まってしまっては困るのです。大学で10人の患者を治せるようになったら、その後は何千、何万の患者を治せるようにしてもらいたい。一部の裕福な人だけではなくて、苦しみを持った人たちすべてを治せるようにするためには、産業化は必須だ。

産業界では、2011年に再生医療イノベーションフォーラムという業界団体ができた。現在、150社が会員となっている。日本の産業サイドは、再生医療にちゃんと取り組もうとしている。

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