新幹線放火、対策のカギは「台湾」にあった "新幹線の父"の息子が事態を予見していた!?

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「日本では車両が燃えだしたことはないから心配はないよ、と僕なんかは言いたいんですけど、誰かが火を付けたら設計が大丈夫でも燃えちゃうでしょうと反論されるんですね。日本ではそんな人いないよと言っても、台湾ではありうる、いるかもしれないでしょと言われると反論できないですしね。(中略)われわれも少し考え方を変えないといけないのかな、と思いますね」(「日本機械学会誌」2004年9月)

島氏の危惧は10年後に現実のものとなった――。事件から1週間後の7月7日、世界の高速鉄道の関係者が一同に介する「世界高速鉄道会議」が東京国際フォーラムで開催された。会議のテーマは「Celebrate the past, Design the future(過去を祝し、未来を描こう)」。

海外の鉄道会社の社長からエンジニアまで多くの人が、プレゼンテーションの中で新幹線の安全性の高さをたたえた。中には、今回の事件を知ってか知らずか、「日本の新幹線は50年間死傷者ゼロ」と語る人もいた。

フランスはドローンを導入

事故や安全対策に関するセッションでは、各国のさまざまな取り組みが披露された。とりわけ注目を集めたのが、フランス国鉄(SNCF)の取り組み。TGVの沿線上空をドローンが飛行しているというのだ。

各種センサーを搭載して、軌道や架線の状態を調べるために使われているが、監視カメラを積めばテロ対策にも有効だろう。会場からは、「ドローンは何時間飛べるのか」「墜落の危険性にはどう対応するのか」といった質問が相次いだ。

高速鉄道の事故により、全世界でこれまでに241人が亡くなったという報告もなされた。日本とはケタ違いの多さである。それだけに世界の高速鉄道事業者は、非常事態は日本以上に現実に起こりうること、としてとらえているともいえる。

日本の新幹線システムに独仏の技術思想を取り入れた台湾新幹線を、台湾高鉄は「ベストミックス」と自賛する。その一方で、日本のベテラン新幹線関係者の中には「台湾で走っているのは新幹線とはいえない」と突き放す人もいる。

どちらが正しいのか、簡単に結論は出ない。ただ1つ言えるのは、100%の安全に近づける努力を惜しんではならないということだ。世界高速鉄道会議のセッションでは、多くのJRの若手社員が熱心にメモを取っていた。「新幹線は世界一安全」という神話におごることなく、海外の事例に真摯に耳を傾けることが必要だろう。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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