リトル・ピープルの時代 宇野常寛 著~大胆な構図で準拠点となる分析

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 全体は3章構成で、第一章の村上春樹論は、一通りの作品分析を踏まえたうえで、「小さな父」をめぐる村上の議論がジレンマを抱えていると論評する。

時代を切り開く力を持った物語は、むしろ「仮面ライダー」であった。その平成シリーズを扱った第二章は秀逸。大いなる父の壊死(=空虚な世界の出現)において、それでも私たちはタフな精神を持って闘わなければならない。そんな時代を映し出すのがとりわけ第3作の「龍騎」で、同作では13人のライダーたち(小さな父)が、それぞれの正義を掲げて殺しあう。もはや正義/悪の二元論は通用せず、あるのは複数の正義=欲望の争いとなる。

仮面ライダーは、改造人間という拡張性ゆえに現代性を備えていた。これに対してウルトラマンやロボットものは失効する。豊かな想像力は、外部に仮想される「もう一つの現実」にではなく、私たちの〈いま・ここ〉を掘り下げた「拡張現実」にある。それはたとえば、ハッカーのようにシステムの内部に潜り込む能力によってもたらされるというのである。

うの・つねひろ
評論家。企画ユニット「第二次惑星開発委員会」主宰。カルチャー総合誌『PLANETS』編集長。1978年青森県生まれ。デビュー作は『ゼロ年代の想像力』。2011年4月より東京大学駒場キャンパスにて自治会自主ゼミ「現代文化論」を担当。

幻冬舎 2310円 509ページ

  

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