欧米経済の病名は大不況でなく大収縮--ケネス・ロゴフ ハーバード大学教授

拡大
縮小

元全米経済研究所エコノミストのアンナ・シュウォーツと故ミルトン・フリードマンが強調したように、第1の「大収縮」はもちろん大恐慌だった。この場合、通常の景気後退のように生産と雇用だけが縮小するのではなく、債務と債権も縮小し、ディレバレッジ(借り入れによる投資の解消)が完了するには通常長い年月を要する。

唯一の解決法は穏やかなインフレ

なぜ呼び名を問題にするのか。仮にあなたが肺炎にかかっているが、ただの重い風邪だと思っているとしよう。そんなときは正しい薬を飲まないことがよくあるが、それでも自分の生活が早く普通の状態に戻ると期待するに違いない。

従来の景気後退では、経済成長が再開すれば、かなり迅速に正常な状態に戻る。経済は失った分を回復するだけでなく、1年以内に成長の長期的なトレンドに追いつくことが多い。ところが深刻な金融危機の後に続く状況はまったく異なる。1人当たり国民所得が危機前のピーク時と同水準に戻るだけで4年以上かかるのが普通だ。

財政刺激策がほぼ失敗に終わった理由は、それが間違っていたからではなく、「大不況」の対策として規模が十分でなかったからだと多数の解説者が論じてきた。

だが、「大収縮」において第一の問題は債務が多すぎることだ。高い信用格付けを保持する政府が乏しい資源を有効に使うとしたら、最も効果的なアプローチは債務の整理と削減の流れを作ることだ。

一例として、政府は、将来の住宅価格上昇分の一部が手に入る代わりに、貸付金の評価額を引き下げるよう金融機関に促すことができるかもしれない。同様のアプローチは国家に対しても行うことができる。たとえば、10~15年後にギリシャ経済が予想以上に回復した場合には債務の返済額を増やす代わりに、ギリシャに対し今よりも大規模な救済措置を取るように、欧州の富裕国の有権者を説得することはおそらく可能だ。

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT