《プロに聞く!人事労務Q&A》節電のため残業禁止を徹底したところ、社員が仕事を家に持ち帰るようになりました。

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《プロに聞く!人事労務Q&A》節電のため残業禁止を徹底したところ、社員が仕事を家に持ち帰るようになりました。

質問

弊社では、節電のため午後6時の消灯を徹底するだけでなく、パソコンを使用できないようにしています。その結果、仕事を持ち帰り、自宅で仕事をしている社員もいます。自宅での仕事をさせないための業務計画を立てるように指導はしていますが、急ぎの仕事の場合はやむをえません。こうした場合、自宅での仕事を残業とみなさなければならないのでしょうか。さらに個人のパソコンの使用に対して使用料のようなものを支払う義務があるのでしょうか。

回答
回答者:石澤経営労務管理事務所 石澤清貴

労働基準法上の労働時間とは、「労働者が使用者の指揮命令の下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かによって客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定すべきものではない」としているのが判例です。したがって、労働者がどこで労働しようが、労働することが使用者の明らかな指示に基づくものであれば、その時間は、当然、労働時間となります。

しかし、労働の場所が「自宅」となると、労働者にとってそこは「私生活の場」であり就業の場所ではありません。したがって、本来、労働者にとっては、自宅は労働する場所でなくその義務もありません。仮に、仕事を持ち帰った場合であっても、実際に何時間くらい労働したのか正確に把握することは困難なため、「持ち帰り残業」は労働時間にならないとする説があります。

ところが、業務量が通常の所定労働時間内では処理できないことが明らかな場合や納期を厳守しなければならないときなど、必然的に持ち帰り残業をしなければならないことがあります。このような場合で、自宅で労働することを命じたり、自宅での労働の必要性について会社が黙認・許容していた場合などは、労働時間となります。

また、会社として持ち帰り残業を禁止する旨を通知するなり、就業規則などで持ち帰り残業を禁止する旨の規定もない中で、業務量または納期等から見て労働者が持ち帰り残業を行った場合は、使用者黙認の指示に基づいて労働したことになるとの行政解釈もあります。

持ち帰り残業が労働時間とみなされると、使用者は労働時間を推測するか、直接労働者から聴き取りをし、あるいはその業務を遂行するために必要な平均時間を推測して、通常賃金と時間外手当は支払う必要が生じてきます。

以上の点からすれば、使用者が持ち帰り残業を禁止する旨を就業規則等や通知等で明示し、明確な指示したにもかかわらず、労働者が自主的に持ち帰り残業をした場合は、労働時間として計算しなくても問題はないということになります。

持ち帰り残業は、ともすると、帰宅途中に書類を紛失したり、自宅のパソコンに顧客情報が残るなど会社のリスクもあります。こうした面からも「持ち帰り残業」は禁止すべきでしょう。そのためには、就業規則等においてその旨を加筆するなどをし、併せて、会社の情報を社外に持ち出さないことも明記すべきでしょう。

ご相談の内容からすると、自宅へ仕事を持ち帰えらざるをえない業務の性質や量その他の要因の詳細は不明ですが、自宅での仕事をさせないための業務計画を立てるように指導もしているとのことですので、原則的には、残業と見なさなくともよいでしょう。しかし、「急ぎの場合はやむをえません」とのことですので、持ち帰ることの承認手続き等を指導しているかも重要です。それらの点を勘案して、残業手当を支払うか否かを判断すべきでしょう。

次の、仕事で私物を使った場合にどうするかですが、私用携帯電話を仕事で使った場合の通話料やマイカーを仕事で使ったケースについてよく相談を受けることがあります。このような場合には、私物を使う場合の承認規定及びその経費精算について、社内規定を作成し、それに基づき使用料を支払うか否かを明確にしておくべきでしょう。

 

石澤清貴(いしざわ・きよたか)
東京都社会保険労務士会所属。法政大学法学部法律学科卒。日本法令(人事・労務系法律出版社)を経て石澤経営労務管理事務所を開設。 商工会議所年金教育センター専門委員。東京都福祉サービス第三者評価者。特に労務問題、社内諸規定の整備、人事・賃金制度の構築等に特化して業務を行う。労務問題に関するトラブル解決セミナーなどでの講演や執筆多数。


(東洋経済HRオンライン編集部)

 

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