(第67回)ペットと少子高齢化の話(その1)

山崎光夫

 公園で休んでいたら、隣のベンチに座る中年女性2人の話し声がきこえてきた。
 「腰が弱って、もう年ねえ」
 「お互いさま。年には勝てないわよ」
 「かなり、変形しているみたい。精密検査を受けようと思ってるの」
 「あら、半年前に検査したばかりじゃないの」
 「でもこじらせては元も子もないから。もう、13歳だし」
 13歳で腰の変形?
 ふと2人の足元を見ると、2匹の老犬が伏せの姿勢で休んでいる。柴犬とチワワである。どちらも体毛は艶がなく、明らかに病身(犬)のようだ。人間並みに検査して、最善の治療を受けている犬たちである。

 この日本列島に、ペットは犬と猫だけで約1800万匹飼育されているという話である。ペット産業は一兆円を超える右肩上がりの一大成長マーケット。
 ペットの数が増えるについては、日本の少子高齢化が影響しているという。子育ての終わった高齢者が生活のパートナーとしてペットを飼育する。
 それと、未婚で単身生活を送る女性が安らぎを求めてペットを飼うというケースもよく見うけられる。ペットに癒やされ“結婚しない女”に拍車がかかっている。
 日本社会でペットがコンパニオン化している。

 デフレ不況の昨今、商業界では、
 「ブライダルとペットは別」
 といわれているという。
 この二つはどちらの場合も、使うとなると、惜しみなく金を投じるようだ。

 ペットの場合、人間のように健康保険はなく自由診療。しかし、人間なみに腹もこわすし、風邪もひく。怪我もするし、不眠にもおちいる。
 ちょっとした骨折の手術でも20万はかかる。

 そこで登場しているのが、ペット保険。
 加入すると通院、入院でかかった治療費が加入時の条件に応じて支払われるシステム。
 ペット自体の高齢化にも配慮して、継続は終身可能になっているようだ。
 人間社会ではデフレと不況で健康保険料も支払いできない“保険支払困難者”が社会問題化されている。が、その一方で、ペット愛好者はペット保険に加入して、金を惜しまない。
 現代世相の二極化現象がここでも見られる。

 ペット愛好者はペットが可愛くて仕方がないという。犬派、猫派、犬猫両立派、いろいろいるが、可愛いその理由のひとつに、口をきかない、がある。
 ペットは一切反論しない。飼い主の思うがまま。実の子どもでも憎まれ口をきくが、ペットにはこれがない。安心して生活できる相手。可愛いがれば、その分なついてくる。
 よく考えると、現代生活で自分の思い通りに牛耳れるものは、案外少ない。
 会社で、学校で、友だちでも思い通りには運ばない。
 夫婦でも、夫が妻を、妻が夫を牛耳るにも積年の壁がある。喧嘩にもなる。
 口は禍の元というが、ペットにはない。ペットは“幸いの元”のようだ。
山崎光夫(やまざき・みつお)
昭和22年福井市生まれ。
早稲田大学卒業。放送作家、雑誌記者を経て、小説家となる。昭和60年『安楽処方箋』で小説現代新人賞を受賞。特に医学・薬学関係分野に造詣が深く、この領域をテーマに作品を発表している。
主な著書として、『ジェンナーの遺言』『日本アレルギー倶楽部』『精神外科医』『ヒポクラテスの暗号』『菌株(ペニシリン)はよみがえる』『メディカル人事室』『東京検死官 』『逆転検死官』『サムライの国』『風雲の人 小説・大隈重信青春譜』『北里柴三郎 雷と呼ばれた男 』『二つの星 横井玉子と佐藤志津』など多数。
エッセイ・ノンフィクションに『元気の達人』『病院が信じられなくなったとき読む本』『赤本の世界 民間療法のバイブル 』『日本の名薬 』『老いてますます楽し 貝原益軒の極意 』ほかがある。平成10年『藪の中の家--芥川自死の謎を解く 』で第17回新田次郎文学賞を受賞。「福井ふるさと大使」も務めている。
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