原発事故で困窮する福島県の企業、「このままでは力尽きる」--深刻な風評被害の実態

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 放射能への懸念は、子どもを持つ家庭ほど強い。そのため、学校や幼稚園、保育園などではいち早く、校庭や園庭の除染に着手した。だが、その苦労は並大抵のものではないという。

郡山女子大学などを運営する郡山開成学園の関口修理事長によれば、除染作業は繰り返し何度も行う必要がある。「これまで放射線の測定やキャンパスの除染で1億円近くを支出した」(関口理事長)。それでも学生の不安は強く、「来年度の入試では応募者数の3~4割減もありうる」(同)と危惧している。

中央総合自動車学校(郡山市)の今野正仁社長は「18歳以下人口の流出が続くと、近い将来、地元教習生も大幅な減少が避けられなくなる」と懸念する。

東電では、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会の「中間指針」に基づき、9月から損害賠償請求の受け付けを開始する。中間指針では「『風評被害』についても、原発事故と相当因果関係のあるものであれば賠償の対象とする」とされた。

だが、「風評被害が中間指針に盛り込まれたことは画期的だが、どこまで認められるかとなると難しい面がある」(企業再生手続きに詳しい大塚和成弁護士)。これまでの損害の一部こそカバーできても、経営の悪循環を断ち切るには不十分だ。

「原発事故による影響は業種によって異なる。観光業は、国の支援がなければ厳しい。円高で製造業の空洞化問題も生じ始めている。一番の問題は、経験したことのない急激な人口減少が起きつつあることだ」(鈴木孝雄・大東銀行社長)。

郡山市防災対策アドバイザーの根本匠氏(前衆議院議員)は、「原発事故に起因する災害対策は、地震、津波災害からの復旧・復興とは別の枠組みで、国家プロジェクトとして推進する必要がある」と指摘する。

それは「時間との競争」(根本氏)であり、企業や産業が行き詰まってからのスタートでは遅すぎる。

(本誌:岡田広行 =週刊東洋経済2011年9月10日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
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