ギリシャはユーロ圏に残る意味があるのか EU首脳会議で支援が決定する確率は50%

✎ 1〜 ✎ 40 ✎ 41 ✎ 42 ✎ 最新
拡大
縮小

ここ数年のギリシャなど南欧諸国の状況を踏まえると、自国において経済安定化政策を持ち続けることが極めて重要であることを、改めて実感せざるを得ない。

ギリシャにとって、現状のユーロはデメリット

ギリシャが経済苦境に至った要因はいくつか挙げられるが、2010年以降の同国経済を最も疲弊させているのは、ユーロに留まることと引き換えに、欧州の債権者側から多額の資金援助(債券借入)に依存し、その後の経済成長や労働市場を回復させる手段を失ったことに尽きるのではないか。

ギリシャがユーロを導入したことで、景気回復の切り札となる金融政策を手放し、財政が悪化すると債務削減のための大規模な歳出削減を実行させられ、確かに財政収支は改善した。

だがそれは自国の経済活動に深刻なダメージを及ぼす。2010年以降、ギリシャの実質GDPの水準は約20%落ち込み、それ以降ほとんど回復してない。また2015年以降は他の欧州諸国は循環的に景気持ち直しをみせたが、緊縮財政の足かせが大きいギリシャはその恩恵を受けていない。失業率は25%前後で高止まりし続けている。

ユーロという通貨システムは、各国にさまざまなメリットとデメリットを及ぼしている。もちろん、支援交渉の片方の当事者であるギリシャ政府の姿勢にも問題があるが、現在の欧州の政治状況を前提とすると、ギリシャにとってはそのデメリットが極めて大きくなっているように思える。

歴史を振り返ると、第2次世界大戦前には金本位制度への「教条的なこだわり」が世界的な不況の一因になった。また日本では、極度にインフレを恐れてデフレを許容した金融政策運営が低成長を長期化させた。このように、経済活動を円滑にさせるはずの金融・通貨制度が機能不全に陥ると、経済活動に大きな弊害を及ぼす例はいくつか挙げられる。

結局、経済合理的ではない理由で、硬直的な通貨・金融政策に固執することは、国民生活に大きな犠牲を強いる。ギリシャでは、ユーロ離脱を望んでいない声が依然多い。政治がそうした世論に迎合する限り、ギリシャ経済が長期停滞から脱するのは相当難しいのではないか。

村上 尚己 エコノミスト

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

むらかみ なおき / Naoki Murakami

アセットマネジメントOne株式会社 シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、外資証券、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。

この著者の記事一覧はこちら
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
日本の「パワー半導体」に一石投じる新会社の誕生
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
【浪人で人生変わった】30歳から東大受験・浪人で逆転合格!その壮絶半生から得た学び
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT