崩れ落ちた中国株、相場暗転で何が起きるか 政府は矢継ぎ早に株価対策を実施

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上海市場と香港市場で相互に株式取引を開放する方針が伝えられ、海外資金が流れ込むとの期待も高まった。国際的な株価指数を算出する米モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルが、中国本土株を新興国株価指数に組み入れる検討を始めたことで、需給の改善期待を一段と高めたのである。

さらには今年3月、中国共産党の機関紙である人民日報(海外版)が「上海総合指数は年内に4000ポイントを突破する」と報じたことも、個人投資家の心理を大きく後押ししたはずだ。足元の景気は不調でも、政策期待と4000ポイントの“お墨付き”によって、個人投資家の資金がさらに流れ込んだのだろう。

状況が一変したことで懸念されるのは、個人投資家に対するデレバレッジの影響だ。株価急落により残高は減少したとはいえ、上海証券取引所の信用買い残は直近でも1兆元を超えている。これは前年同期比で4倍以上の規模だ。

大量に残る信用買い残

6月下旬、中国証券監督管理委員会の報道官は、相場の下落について、「先の過剰上昇に対する自発調整」と楽観的な見解を示していた。

しかし、いっそうの株価下落で信用取引の追加保証金が支払えず、投資家が損切りに追い込まれると、売り圧力がさらに膨らむ。2014年前半に1日当たり1000億元だった売買代金は、ピークアウトする直前の6月上旬には1兆元超。一連の買い支え策で相場が落ち着いたとしても、含み損を抱えた投資家の“玉”が出てくることで、回復の頭を抑えかねない。

くしくも株式市場の大崩れと前後して、工業生産や不動産市況が底を打つなど、一部の景気指標には明るさも見られていた。今年3月、日本の国会に相当する全国人民代表大会で掲げられた、2015年のGDP(国内総生産)成長率の目標は7%前後(2014年の実績は7.4%)。第1四半期(1~3月)は7%だったが、7月15日に公表される第2四半期(4~6月)には、7%を切る可能性が高い。

政府としては、第2四半期の結果を底に回復に向かい、年間目標を達成するのがメインシナリオだったはず。個人投資家の心理が株価下落で急激に冷え込めば、消費に影響が及び、景気回復に思わぬ水を差す。あの手この手で、株価下落を食い止めようとする中国政府の姿勢は、不安の裏返しに違いない。

「週刊東洋経済」2015年7月18日号<13日発売>「核心リポート01」を転載)

三尾 幸吉郎 ニッセイ基礎研究所 上席研究員

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みお こうきちろう / Kokichiro Mio

専門分野は中国経済。1982年慶応大学卒業(専攻:中国政治)、同年日本生命保険入社、1994年米国パナゴラ投資顧問派遣、2000年ニッセイアセットマネジメント株式会社を経て、2009年よりニッセイ基礎研究所。日本証券アナリスト協会検定会員。中国のこれまでの経済発展の歴史を踏まえたうえで、経済構造のトレンド変化や中国の最高指導部が打ち出す構造改革の真意を読み解くとともに、中国に先行して経済発展した日本や韓国などの成功例や、経済発展の途上で「中所得国の罠」に陥ってしまった国々の失敗例を参考にしつつ、中国経済を予測している。

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