なぜあの人は「できない理由」ばかり探すのか 専門家が社内の"抵抗勢力"になるメカニズム

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このように、もともと専門家のアリ型思考は、新しいことを提起しようとするイノベーターのキリギリス型思考とは、構造的に相いれないものがあるのです。

アリとキリギリスの思考回路の違い

ここで、「線が引かれた世界の最適化」を旨とするアリ型の思考と「線そのものを新しく引き直す」キリギリス型の思考との違いの構造を、「仕事の完成度」という視点で整理しておきましょう。 

キリギリスが得意とするのは、完成度が低く不確実性が高い段階です。対するアリが最も得意とするのは、ある程度出来上がった、いわば70~80点のものを完璧に仕上げていくという、最後の仕上げの段階です。

80点の状態を見て、そこから100点を目指して「足りないところ」を潰しにいくアリは、完璧主義かつ悲観的です。まずはどのようなリスクがあるのか、どのような例外的なことにも対応できるように、どのような例外的なことでも見逃さないように、さまつなことにも気を遣って、とにかく穴がないようにチェックしていくことに力を注ぎます。

対するキリギリスは、まずは少ないありもの(情報や資金)で何ができるのかを考えます。

「貯める」ことを重視するストック志向のアリと、「使う」ことを重視するフロー志向のキリギリスの性格が、おのおのの場面でいかんなく発揮されます。

知識面においてもストックを重視するアリは、「過去の経緯」や「前例・実績」を何よりも重視します。

対するキリギリスは、フロー志向で少ないリソースをどこまで有効活用できるのか、そこからどんなチャンスが生まれうるのかについて楽観的に考えます。まだ何もないこの段階で先にリスクを挙げ出したら、何も進めることができないからです。

ここまでの思考回路の相違のメカニズムを踏まえて、なぜ企業では「できない理由」が増殖していくのかを考えてみましょう。

まずは、そもそもの人間の思考回路の基本的な性質からくる要因です。

・できない理由のほうができる理由よりもはるかに簡単に思いつく
・その原因として、「今あるもの」への影響を語るほうが「今ないもの」を想像するよりはるかに簡単である

 

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