グーグル「ジャーナリスト支援事業」の本気度 新しい取り組み「News Lab」は何をもたらすか

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YouTubeとStoryfulの提携は、グーグルによるニューステクノロジー企業のビジネス支援といえる。グーグルは、ツールとして検索技術などのテクノロジーを提供しているが、人の手による「編集」は行っていない。

そのため、編集を提供してくれるニュース編集機能を提供するスタートアップと提携したわけだ。今後は、こうした提携の推進も、News Labを舞台に進めていくのではないか、と考えられる。巨大な情報プラットホームが、ニュースプラットホームとして活用できないはずはないため、多くのニュース系スタートアップにとって魅力的なものだ。

News Labの「Programs」のページでは、メディア系ベンチャーキャピタルMatter、欧州ジャーナリズムセンター、スカラーシップなど、多彩なプログラムを用意している。

つまり、グーグルはNews Labによって、既存のメディアによるGoogle活用の促進だけでなく、テクノロジーやデータを駆使した新たなメディアやジャーナリストの育成に取り組んでいる。

編集の価値は変わらない

2015年はこれまで、ニュースに関するテクノロジーへの取り組みが目立つ上半期だった。フェイスブックはアプリを切り替えずに記事を読む環境を提供するInstant Articlesを発表しており、アップルは秋にリリースされるiOS 9で「News」と呼ばれるニュース専用アプリを米英豪でスタートさせる。

Twitterはメディア活用を促進させるセクションや編集者を抱えているが、モバイルアプリにニュースタブを設けたり、「Project Lightning」と呼ばれるイベントのリッチメディアコンテンツを即座に共有する仕組みを2015年中に公開する予定だ。

これらの新サービスは、ニュースの受け取り方としてのアプリに加え、ニュースの作り手も想定している。フェイスブック、アップル、グーグルは、ニュースの作り手と受け手を明確に分けているのに対し、InstagramやTwitter、そして前述のStoryfulは、必ずしもそこに明確な線引きが見られない。例えばTwitterは、ニュースの受け手がすぐにニュースの発信者にもなり得るからだ。

「広告モデル」と「購読モデル」が中心のニュースのビジネスモデルは今後も変わらないだろう。しかし、誰がニュースによってお金を得るか、という点では、その対象が膨大な数に膨れあがっていく。その収益規模も、より小さな単位になっていくことが考えられる。

ただし、情報、そしてジャーナリズムに価値をもたらすのは、「編集」と「ストーリー化」である。その点は、今後も変わらないだろう。あくまで、それを助けるのがテクノロジーなのである。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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