グーグル、モトローラ1兆円買収で特許固め 岐路に立つグーグル

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岐路に立つグーグル、モトローラ1兆円買収で特許固め

米グーグルは8月15日、米通信機器大手モトローラ・モビリティを125億ドル(約9600億円)で買収すると発表した。同社にとって2006年のユーチューブ(16・5億ドル)、07年のダブルクリック(31億ドル)をはるかに超える大型買収だ。

この買収の目的は、公式ブログにおけるラリー・ペイジCEOの説明によると、極めてシンプルだ。

「モトローラ買収で、グーグルに協力する企業が増え、競争力は高まる。そのことがマイクロソフトやアップル、その他の企業の反競争的脅威から『アンドロイド』を保護することにつながる」

アンドロイドの保護--これは無償ソフトであるアンドロイドを用いてスマートフォンをつくっているハードメーカーにとっても当然、大歓迎だ。これまでグーグルやアンドロイド採用メーカーはさまざまな特許侵害を疑われ、オラクル、アップル、マイクロソフトなどが提訴している。

これに対し、グーグルは逆提訴やクロスライセンス(相互利用契約)に持ち込めるだけの十分な特許を持っていなかった。携帯電話の通信形式の基礎的な部分を含むモトローラの1万7000件の特許を入手することにより、アップル、マイクロソフトの“反競争的脅威”への対抗力を持つことになる。

訴訟の行方次第では崩壊のリスクがあったアンドロイドが、より安定性を増したことは間違いない。

利益率が急悪化

が、今回手に入るのは、特許だけではない。加わる社員数は1・9万人(昨年12月末時点)。グーグルは約2・9万人(6月末)であり、グループ社員数は急増する。売り上げも10年実績でグーグルが293億ドルに対しモトローラが114億ドル。純利益はグーグル85億ドルに対し、モトローラは8600万ドルの赤字。つまり、グーグルの利益率は一気に悪化する。

長らくフィンランドのノキアと2強の地位にあったモトローラはスマートフォンへのシフトが遅れ、すでに業界8位へと後退。今や完全な“負け組”だ。グーグルがモトローラの収益改善を意識して共同開発などを少しでも強化すれば、韓国サムスン電子やLG電子、台湾HTCなどアンドロイド採用上位企業の離反を招き、マイクロソフトの「ウィンドウズフォン」が漁夫の利を得る可能性が高い。

モトローラを大リストラしてでも従来のソフト特化型の事業モデルを守るのか。この際、モトローラをテコ入れしてハードとソフトを一体で生産する、アップル流の垂直統合型モデルに舵を切るのか。グーグルは今後のアンドロイドファミリーの動向によって難しい選択を迫られる。

(本誌:山田俊浩 =週刊東洋経済2011年8月27日号)

※記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。
山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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