中国のレアメタルバブル崩壊が近づいている 「社会主義市場経済」に潜む「危ない構造」

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一方、売り手(主に製錬所)にとっては現物を取引所に持ち込んだ時点で、おおよそ8割のおカネが入ってくるわけだから一見すると換金するには便利な仕組みである。

つまるところ、相場が右肩上がりに上昇している時は全員が儲かるが、現物取引だけである。もし、いったん下がりだしたときには往生する構造になっているから、今後は大変なことになると予見せざるを得ない。

この点、FYMEは繰り返し「プラットフォーム」を通じて取引の利便性を訴えるわけである。早い話が、「雀荘は場を提供するがゲームの損得はお客さん同士でやって下さい」という話だから、「勝負は時の運、損も得もお客さんの個人責任でやって頂戴」というわけだ。いわば、国家が率先して「博打」の資金を提供しているような話である。

損切りができない「素人投資家」が頭を抱えている

今の中国の「バブル経済」の中では、おカネの行き先がなくなって単純に商品取引にも向ったというわけだが、国家がレアメタルという中国独特の商品取引のプラットフォームを用意したことで、市場の受け皿になったという見方もできる。

元々、レアメタルは生産過剰気味であり、本来は輸出に向うべきエネルギーを国内市場に向わせることができたので一気に取引高が伸びた。

売り手は政府発行の輸出許可証が入手できず膨れ上がった在庫の処分先としてFYMEを選択した。一方の買い手は、使い道のない余資を値上がり期待の可能なFYMEに向けたと容易に想像される。

会員数23万社の中には個人会員が多いために、レアメタルの何たるかも知らずに投資している人も少なくないはずだ。その意味では他に投資妙味のある分野が現れたらFYME市場も萎んでしまう構造になっているとの意見もある。

事実、今の中国では証券投資が活発で、国民総投資家となって「狂乱市場」に突入した。その結果、FYMEで取引をしている投資家は、損切りしてでも在庫を処分したいのだが、買い手が見つからないので売買ができずに困っているという。

本来なら相場が弱ければ気配値が下がるべきだが売買ができないために、FYME価格は高止まりのままになっているとの報告もある。レアメタル市場に踊らされた一般個人投資家は、率直に言えば、ズブの素人である。40年近い私の経験からすると、そうは遠くない近未来にレアメタルバブルが崩壊すると予見せざるを得ない。

中村 繁夫 アドバンストマテリアルジャパン社長

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なかむら しげお / Shigeo Nakamura

レアメタル(希少金属)の専門商社「アドバンスト・マテリアル・ジャパン代表取締役社長。中堅商社・蝶理(現東レグループ)でレアメタルの輸入買い付けを30年間担当。2004年に日本初のレアメタル専門商社を設立。著書に『レアメタルハンター・中村繁夫のあなたの仕事を成功に導く「山師の兵法AtoZ」』(ウェッジ)、『レアメタル・パニック』(光文社ペーパーバックス)、『レアメタル超入門』(幻冬舎新書)などがある。

 

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