配偶者控除見直し「3つの案」はどれが有力か 次の焦点は「若い世代」が納得できる税制改革

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ただ、選択肢Cの線で、基本的考え方と整合的な制度設計を考えればどうなるだろうか。

少なくとも、以下のような要件を備えていなければならない。まず、「働き方に中立的」つまり配偶者の収入によって納税者本人の税負担額が影響を受けないようにするには、配偶者の収入によって控除額が変化しないものでなければならない。

「夫婦共働きで子育てをする世帯にとっても」税制上の恩恵がなければならない。婚外子が少なく、子どもを産み育てようとするには多くの場合結婚が前提となるわが国においては、夫婦になることによる税制上の恩恵が求められる。

「格差が固定化せず」とするには、これから子供を産み育てようとする若年・低所得の夫婦世帯に税制上の恩恵が及ぶ仕組みを入れなければならない。

所得控除方式でなく、税額控除方式への転換を

これを実現するには、東洋経済オンラインの本連載の拙稿「所得税改革は、『配偶者控除』だけではない 『103万円論議』の先にある大切なこと」で指摘したように、現行の所得控除方式でなく、税額控除方式に転換させる必要がある。

それとともに、控除を受ける納税者本人が高所得者の場合には、選択肢Cでいう「夫婦控除」の控除額を段階的に減らすことで、所得格差是正効果をより発揮できる。

当然ながら、配偶者控除だけを税額控除に変えて、他の人的控除が現行の所得控除方式のままでは税制上の整合性が取れない。したがって、女性の働き方や子育て支援に配慮した配偶者控除の見直しと連動して、人的控除(少なくとも基礎控除)も税額控除に変える改革がセットとなってこよう。

税収中立を前提とする限り、低所得者や若い夫婦世帯で実質的な負担減とするなら、相対的に高所得者は負担増とならざるを得ない。

世帯所得の中位値は500万円弱とされる。だから、世帯所得600万円以上の世帯には負担増(それ未満は負担減)となる案を出せば、確かに世帯全体の半分以上が負担減となる案なのだが、直感的に言えば政治的に容易に通る案とは思えない。負担増となる世帯所得を1000万円以上とする案ですら微妙だ。負担増となる所得額を高めるほど、負担増となる世帯は減るが、その分負担減できる額はちっぽけになる。

税制改革論議の行方は予断を許さない。しかし、税収中立で、所得税における控除の与え方を工夫することで、政策目的をよりよく達成できる方策が求められる。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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