日本版スマートグリッドは離島から始まる! “先進地”黒島・屋久島現地ルポ

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島では午後6~8時に需要のピークを迎えるが、太陽光はもっぱら日中に発電する。需給の不一致を調整し、住民に安定供給する役目を蓄電池が担う。経済産業省が大枠を企画し、09年から九州電力と沖縄電力が実施・運営する国家プロジェクト「離島マイクログリッド」。再生可能エネルギーを蓄電池と組み合わせて使うこの次世代エネルギー社会実験の中心地に選ばれたのが黒島だった。発展を後追いするだけの島から、先取りする島へ。一躍の変貌である。

島の小・中学校にとっては、環境を考えるためのこの上ない“教材”の到来だった。全校生徒17人、黒島に二つある小・中学校の一つ、大里小・中学校では竣工式翌日に同設備の見学会を行った。実証試験担当の説明を聞いた後、生徒たちが思い思いに感想をつづった俳句がある。

「空の下 めぐみの自然 ささやくよ」そう詠んだ小学5年生の日高麻里百さんは、「風力発電機をよく見たら鯨の顔をしていた」と笑顔を見せる。10年6月には電力会社の社員を講師に呼び、電気の出前講座も開催した。子どもたちは、電球付きのダイナモを手で回して発電の仕組みに触れ、風力発電の原理を知り、電気自動車にも初めて乗った。大里小・中学校の徳森孝一校長は「再生可能エネルギー設備は島によい刺激を与えてくれた。環境を守る重要さを教えるきっかけにもなっている」と満足げだ。

実証試験開始以来、月3~4人の関係者が来島する。小さなこの島にとっては貴重な客である。「行き交う人が増えれば、宿の宿泊も増える。必ず何か変わるんです」。そう語る日高郷士・三島村村長の声は切実だ。1970年から10年までの40年間で、村の人口は4割減少した。本土からの交通の不便さゆえ、観光産業の育成も企業誘致もできず、村の経済は縮小の一途をたどってきた。2年前、九州電力から実証設備候補地にしたいという要請があった時は、二つ返事で了承した。地域活性化につながる一筋の光だ。「九州電力はもっとこの島を再生可能エネルギー導入の場として生かしてほしい」と、日高村長はラブコールを送る。

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