廃線寸前だった弱小鉄道が生き残れたワケ 「四日市あすなろう鉄道」誕生までの道のり

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市民も立ち上がった。沿線住民の上野理志氏によってFacebook上に「近鉄内部・八王子線同好会(現、四日市あすなろう鉄道同好会)」(以下、「同好会」)が開設され、存続に向けた共感の輪が徐々に広がっていく。

市民もバックアップ

あすなろう四日市駅(自動改札撤去後)の様子

そして「同好会」を母体として「四日市の交通と街づくりを考える会」が創設され、上野氏が理事長に就任。

有識者を招いたシンポジウムや小古曽駅での花植え活動、ウォーキングイベントの開催、そして費用対効果分析に基づく存続案の策定等を通して、同線存続に向けた啓発活動を積極的に展開した。

2014年7月には、四日市市の全面支援を受けて、交通有識者の学術団体である交通権学会研究大会の開催にもこぎつけ、内部・八王子線活性化に向けた取り組みを強くアピールした。上野氏は「存続問題を知った時は、私にできることから始めようと思い、同好会を立ち上げた。それが『四日市の交通と街づくりを考える会』創設に発展し、市役所や市議会等からも多大なご支援を頂くまでになった。存続が実現し、感謝している」と語る。

また、内部線追分駅前の「洋風食堂モンヴェール」も「ナロー弁当」の販売や、貸し切り列車「ワイン列車モンヴェール号」の運行を企画し、存続を積極的に応援した。同店オーナーの青山友松・小百合夫妻は「地元の貴重な足であり、また貴重なナローゲージである内部・八王子線に乗りに来てほしいという思いから『ナロー弁当』の販売を始め、ついには『ワイン列車』の運行を決断するに至った。これからも『ワイン列車』の運行を続けたい」と話す。

内部・八王子線の存続に向けた協議が大詰めを迎えつつあった2013年8月25日には、四日市市立南中学校で『乗って残そう! 内部・八王子線! 存続を願う市民の会』が開催され、南中学校吹奏楽部の演奏、各団体からの活動報告、存続決議文の採択などが行われた。

このとき、存続を願う市民の熱気はまさに最高潮に達していた。近鉄との交渉に最前線で当たった山本勝久四日市市役所都市整備部理事は、「交渉は、市民のみなさんの想いを背にしながら進めたが、これまでに経験したことのない極めて厳しいものだった」と当時の様子を振り返る。

市民の熱意が通じ、2013年9月27日、四日市市と近鉄は公有民営化による同線存続で合意。2014年3月27日に近鉄と四日市市の出資によってYARが設立された。初代社長には田淵裕久近鉄専務(当時)が就任した。

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