「絶歌」で注目、"サムの息子法"を日本にも 7割の弁護士が日本での制定に「賛成」

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武市尚子弁護士

現時点では犯罪加害者側の出版活動は自由であり、犯罪被害者への被害弁償も任意であることから、被害者の二次被害や苦痛の下に加害者が利益を得ることが可能です。もちろん、被害者も別の手続で加害者に対して損害賠償請求することは可能ですが、被害者側に過度の負担を課すことなく実質的な被害回復につながるような仕組み作りは検討されてよいと思います。また表現することと出版して利益を得ることはイコールではなく、憲法上の表現の自由に対する過度の制約とはならないと考えます。

「表現の自由」は有料で利益を上げる自由ではない

山本毅弁護士

犯罪被害者に対する現状の補償制度は不十分であり、犯罪者が犯罪を犯したことを基に出版した書籍などの利益を差し押さえできるようにすることには問題がないと考える。反対論者が主張するように、現状のままとして、犯罪被害者または遺族に債務名義を取ることを求めることは、却って、公平を失すると考える。事案によっては、事件から3年以上を経過してしまい、債務名義が取れない事例もあるはずであり、その場合には救済されないことになってしまうのは、問題であり、制度的に解決すべきである。

北出貴志弁護士

犯罪を犯した人が、その犯罪自体から利益を得ることも、その犯罪にかかわる出版などで利益を得ることも、許すべきではないでしょう。感情的な観点からも納得しがたいですし、何より、犯罪をすることが利益になっては、犯罪に対する抑止力が低下します。したがって、出版によって生じた利益が、犯罪を犯した人に渡らないよう、法整備をするべきであると思います。一方、表現の自由やその裏にある国民の知る権利との関係もあり、出版そのものの制限については、慎重に考える必要があると思います。

岡田晃朝弁護士

被害者の救済が圧倒的に足りていませんから、犯罪者がいかなる形でも利益を受けた場合は、被害者の救済に売り分ける法制度は、積極的に行われるべきかと思われます。そのための方法のひとつとして有意義な制度でしょう。犯罪者が何らかの行為で利益を上げるのは被害者への弁済がすべて完了してからでよいでしょう。なお、表現の自由は、有料で利益を上げて出版する自由ではありません。さまざまな意見はあるとは思いますが、私は表現自体は規制しない以上、違憲とは言えないかと思われます。

広瀬めぐみ弁護士

制定すべきだと思います。刑事罰と民事上の損害賠償は別途の問題ですが、刑事事件の中で民事上の損害賠償額も決められたらいいですよね。そのうえで、加害者が己の犯罪を利用して利益を得る場合には、被害者側がその損害賠償額に充つるまで自動的に差し押さえができるような法整備があったらよいのでは。加害者の表現・経済活動の自由も守られる必要があると思うのでそのように考えます。現状では無理と思いますが。

大貫憲介弁護士

日本でも制定するべきだと思います。ただし、犯罪から得た利益と認定して押さえる手続きは司法判断にゆだねるべきでしょう。警察に任せるのは濫用の危険があります。たとえば、法務省人権擁護局等が裁判所に請求し、裁判所の判断により、印税などを一定期間供託させ、犯罪被害者に差し押さえの機会を与えるなど、制度設計をよく考える必要がありそうです。

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