東京の「夜文化」は日本経済活性化のカギだ 風営法改正はビジネスチャンスをもたらすか

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――改正案施行後の日本では、こういうことをしてみたらいいんじゃないか、というものはありますか。

たとえば飲食店事業者は、お店の価値を高めるためにもっと音楽を活用する余地は大いにあると思います。イベントによる集客に加え、音楽はマーケティングやプロモーションの観点からも存在感を増してくると思いますが、僕はそれを悪いことだと思いません。飲食店は音楽をもっと有効に賢く活用することで、お店のブランドイメージを格段に高めることができると思いますし、それによって才能あるミュージシャンの活躍の場も増えます。先のヨーロッパのパトロン文化にも通じるものがあると思います。

アートと同じ感覚で楽しめる環境になればいい

また実験的な音楽の表現の場としては、クラブや飲食店よりも、ギャラリーや美術館の方が適しているかもしれません。音楽とアートの境界はテクノロジーの進化とともにどんどんなくなってきています。ギャラリーなどでアートと同じ感覚で最先端の時代の音楽を楽しむということはもっとあっていいと思います。音楽を聴くといえば、派手にライブハウスかクラブで聴くものという感じですけど、もっと広く、音楽の違う価値を音楽以外の業界がつかみ取っていけるようになればと思い、風営法改正運動と並行して、そのためのネットワークを少しずつですが作っています。

――今回の改正は、ただクラブにまつわる話題ではないということですね。

そうですね。クラブを守る、ということにとどまらず、クラブに限られず音楽、さらにはそれまつわる文化がどんどん発展していってほしいんですよね。生き物と一緒でDNAが進化すれば入れ物は古くなっていきますから、クラブカルチャーが生まれる場所としてはクラブじゃなくてもいいと思います。もっと柔軟に生物の進化と同じイメージで、時代の空気を感じ取りながら有機的に形を変えて面白くなっていけばいい。形を変えて広い世界に飛び火していけばいいですね。

――そう考えると、これまでは規制があったからこそライブハウスはライブハウス、クラブはクラブ、という枠組みが現実的にも意識的にも強固だったのかもしれませんね。

すごい音響で音を浴びて朝まで踊るというのも、ストイックで伝統的なクラブのあり方としてすばらしいと思います。最高峰の音響で、身体で音楽を浴びるというフィジカルな体験は、インターネット全盛の今、とても重要だと思います。

強調したいのは、それにとどまらず入り口は多くあった方がいいということです。それは飲食店かもしれないし、ギャラリーかもしれない。今回の風営法改正は「朝まで踊るために」ということだけではなく、もっと幅広い文化圏の人たちも含めたインフラ整備だと思います。音楽やその周辺文化が市民権を得て、都市が魅力的な文化のゆりかごとして機能するために重要なことだと思います。

(インタビュー&執筆: タイムアウト東京 三木邦洋)

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