ギリシャ、素人政治の暴走でユーロ離脱か デフォルト迫る、国民投票後のシナリオ

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逆に投票で受け入れ賛成派が多数を占めた場合、ギリシャ政府は財政再建策の受け入れに傾くとみられるが、与党内の強硬派がこれに反発し、政権が崩壊する可能性が高い。この時、支援継続派が挙国一致内閣を組織できれば協議はそのまま継続するが、それが出来なければ議会の解散・総選挙が必要になる。混乱の末に解散・総選挙となった場合、支援継続派の新政権が誕生する可能性が高い。だが、新政権が発足するまでの1カ月半から2カ月程度は協議が中断し、ギリシャの経済疲弊と財政悪化が一段と進むことになる。

支援協議が再開できても改革要求はさらに厳しく

挙国一致内閣や新政権の下で改めて支援協議が再開されたとしても、既に支援プログラムが失効しており、新たな支援プログラムを改めて作成する必要がある。一連の融資再開の協議で債権者側はギリシャに対する不信感を強めている。改めて支援プログラムを再考するに当たっては、これまでよりも厳しい改革要求を突きつけられることや、口約束ではない改革の実行を求められる可能性がある。そのことが新たな対立の火種となる恐れも否定できない。

債権者からの厳しい改革要求と政権内の強硬派や支持層からの突き上げの板ばさみにあったギリシャの新政権は、緊縮見直し要求を貫き通すことが難しいことを認識していながらも、交渉期限のギリギリまで粘ることで債権者から譲歩を勝ち取ることを目指してきた。

だが、債権者側はギリシャに甘い顔をすることで、他のEU諸国に広がる反緊縮機運や反体制派政党の勢いが増すことを警戒。他国への波及リスクがかつてに比べて限定的であることや、EUに対する信任を守る大義もあり、ギリシャに厳しい態度を貫き通した。22日のギリシャからの新提案もギリシャ政府にとっては最大限の譲歩だったのに対し、債権者側にしてみればようやく議論の出発点であり、双方の溝は余りに大きかった。

債権者側の譲歩を引き出そうとするギリシャ側の権謀術数も、債権者の不信感と苛立ちをさらに深めるばかりで、政権内部の強硬派の不満のガス抜きや政権に対する国民の支持を保つ以外に目立った成果を上げることにはつながらなかった。

破天荒で理想主義者の素人政治集団はエスタブリッシュメントが支配するEU政治の中で孤立。交渉に重要な対話のルートも閉ざされ、最後は双方をつなぐパイプ役からも見放された。ギリシャはいよいよユーロ離脱に突き進むのか、ギリシャとユーロの未来を決する国民投票の期日が迫る。

田中 理 第一生命経済研究所 主席エコノミスト

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たなか おさむ / Osamu Tanaka

慶応義塾大学卒。青山学院大学修士(経済学)、米バージニア大学修士(経済学・統計学)。日本総合研究所、日本経済研究センター、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィッター証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)にて日、米、欧の経済分析を担当。2009年11月から第一生命経済研究所にて主に欧州経済を担当。

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