”復活”日本−−日中韓・造船三国志 【上】

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長く忘れ去られていた造船産業が“沸騰”している。空前の受注を積み上げ、韓国・中国は造船能力の拡大に猛ダッシュ。が、独り日本は動かない。“最強”のコスト力を回復した余裕か、トラウマの呪縛か。大ブームの“向こう側”の海図は見えない。

(週刊東洋経済2月2日号より)

海運マンとして40年有余。ナビックス、商船三井の副社長を歴任した山下眞一郎さんは船主ビジネスに乗り出した。いわば「一人海運業」。昨年6月、2隻目のハンディマックス(5・2万トンのバラ積み貨物船)が竣工した。60代の“起業”を祝福したのは、海運市況の大暴騰だ。

ケープサイズ(15万トン以上の大型バラ積み貨物船)の用船料は昨年末、日建て16万ドルに噴き上がった。山下さんが言う。「私の現役時代、市況のピークは3万ドル。それも1年と続かなかった。今のマーケットは想定外の外。私の辞書にはない」。

足元、サブプライム禍が響き、ケープ市況9万ドルに反落したが、それでも過去のピークの3倍。この水準なら新船投資は4年で回収できる。

海運市況に火をつけたのは、もちろん、中国を筆頭にしたBRICsの爆発だ。中国に鉄鉱石を運び込むケープサイズ、そして中国から製品を満載して海を渡るコンテナ船。世界中の海運会社や山下さんのような船主たちはここを先途と、怒濤のように新船を造船所に発注している。

2007年1~9月の世界の受注量は1.3億総トン。9カ月で06年1年間の実績を26%上回り、前回ピークの1.6倍に積み上がった。

造船業の適正受注残はせいぜい2年。が、ただ今現在、日本の造船各社は3~5年分の注文を抱えている。向こう5年、海運市況や鋼材価格がどうなるか。何の保証もないにもかかわらず、この受注量。「注文を出すほうも出すほうなら、取るほうも取るほう。正直、異常な状態」(造船会社)。

過去の不採算船が尾を引き、07年度の造船各社の収益はまだ、まだら模様だが、08年度以降は軒並み急改善する。「06年に受注した船が売り上げに立てば、かつてないような数字を実感できるようになる」(三菱重工業・船舶海洋事業本部)。

BRICsの爆発は「オールドエコノミー」を忘却の淵からよみがえらせた。鉄鋼業が息を吹き返し、海運業が大化けし、今、“真打ち”登場。空前絶後の「造船の時代」である。

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