「絶歌」元少年Aの犯罪、原因は母親にあった? 浮き彫りになる両親の手記との違い

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4年で3人の息子を授かった彼女は、3男に手が掛かり、上の二人が騒いだり兄弟喧嘩になると、“パニックを起こした”といいますが、それでも上二人に体罰を加えるというよりは、「お尻をパーンを叩いてたしなめた記憶があります」という程度です。

両親と食い違う「A」の言い分

一方でAの精神鑑定やその他の調査結果によりますと、長男であるAと両親の認識は隔たりがあります。母親は彼が1才になり次男が誕生した頃から、彼を突き放すようにして育てました。さらに三男が生まれてからは、睡眠不足もあって母親は「いつもいらついて」いました。特にAには躾けに口やかましく、厳しく育てました。

Aは物心ついたときから、母親は甘えさせてくれる存在ではありませんでした。Aの欲求不満のはけ口は最初弟に向かったようです。兄弟喧嘩が始まると、弟がどんなに泣いてもAは手加減せず暴力を止めなかったそうです。母親は相当Aに体罰を加えたといいます。Aは母親を恐れるようになっていました。

同居する祖母と母親は、「Aに厳しすぎる」「子どもの育児に口出しするな」というケンカを、よくしました。本来子どもの安全基地は母親か両親のはずですが、Aにとっては、祖母が「安全基地」でした。「祖母の背中が唯一の温かみを感じる場所」で、その祖母の死がナメクジから蛙、ネコ、人を殺める切っ掛けになったのです。

Aは幼児期より母親をひたすら恐れ、成長するにつれて平気で母親にウソをつくようになりました。14才で事件を起こしたときも、両親との面会を拒否し続け、やっと面会しても母親に、「ブタ野郎!カエレッ」と罵しりました。母親はAにとって、安心を与えてくれる「安全基地」ではありませんでした。

どのような家庭環境でも凶悪な少年犯罪が起こりうるものですが、共通するのは親の想いや傍から見た家庭環境と、子供の育ち方に大きな隔たりがあることです。

1989年の女子高生コンクリート詰め事件では、犯人グループのそれぞれの家庭環境が、どこにでもある平均的な家庭だったことでも話題になりました。

直近の今年6月の第4週でニュースになっている相模原市の女性死体遺棄事件では、犯人の男女は(未成年ではありませんが)二人ともお城のような豪邸に住んでおり、生活も王子と姫のような者たちです。

逆に、母親の厳しい躾けや過干渉が子どもを追い詰め、凶悪な事件に繋がるケースが意外と多いことにも気づかされます。秋葉原通り魔事件の加藤智大は、母親からスパルタ教育を受けました。

テレビ番組は「マンガ日本昔話」など2本だけ。友達との往来は禁止。作文指導では母親が横に座って検閲し、質問は母親がカウントダウンし、10秒以内に応えないとビンタが飛んだそうです。

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