今の日本の皮膚呼吸を伝える場所が東京--『トーキョー・ストレンジャー』を書いた姜尚中氏(東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授)に聞く

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 実は40年の東京体験を持ちながら、一度も東京都内に居を構えたことがない。ヨーロッパから帰ってきて埼玉県の上尾市に住んだ。その後、千葉県に転居している。

そこから見た80年代の東京は不夜城、それこそエル・ドラド、黄金郷のようにも見えたが、事実はもはや欲望の発情都市になっているだけだった。それも完全な消費都市。

行儀よく消費する、そういうものにしか見えなかった。

──ずっとストレンジャー(よそ者)だった?

東京はもともとよそ者の集まり。東大のマンホールには今でも帝大の刻印のあるふたがある。なぜ東京を帝都と称したか。

薩長土肥が幕藩体制をひっくり返して、東京で交ぜ合うとすれば、その中心は帝都とせざるをえない。それが東京たるゆえんとなって、戦後も形を変えて続く。

そういう東京に引き寄せられたのだが、80年代の東京はもう学生時代にイメージした東京ではない。

──その後、バブルが崩壊します。

バブルが崩壊して、山一証券や拓銀の破綻を経て、今や20年。東京は、ますます中空を縦に伸びていく。ひところの虫食い状態の空き地はパーキングになって、東京はコミュニティという意識を失った。

かつて鈴木都政のときはマイタウン東京がキャッチフレーズだった。マイタウンという言葉には一体化の意識があった。この本で取り上げた谷根千や神田には一部残存しているが。

高層ビルだらけの東京が、それでも世界都市として人々を自由に受け入れ、魅力ある都市らしい都市として自由な雰囲気を作り出していけるのかどうか。

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